1. テロメア(telomeres)研究期待の星はランゲ博士(Titia de Lange)
先週ご報告したMIT大学のガレンテ博士らのナイアシンと*サーチュインに関する新たな報告は、オランダ出身のランゲ博士(Titia de Lange)の研究と人気が応援かつ支持する形になっています。
*サーチュイン(sirtuins):NAD+依存性ヒストン脱アセチル化酵素(NAD+-dependent deacetylases)(sirtuin:silent mating type information regulation)発見したハーバード大学、MIT大学グループが名付けました.
ランゲ博士はガレンテ博士らと同様にテロメア(telomeres)研究のオーソリティー。
現在は癌と長寿に関与するテロメア探究の発祥地であるロックフェラー大学教授。
ガレンテ博士らと異なるのはテロメア研究の切り口と志です。
ランゲ博士のテロメア研究は、創薬を最終目的にする米国東部海岸のガレンテ博士らとは異なり食生活からテロメアの活性化をはかり、癌予防、長寿の達成が目的。
そのためか、世界で最も著名で規模の大きい食品会社ネスレの役員なども経験しています。
2. 先端医療の安全性確保には時間が必要です
がん研究は遺伝子編集や遺伝子組み換え、免疫細胞の体外培養など遺伝子細胞学を駆使した医薬品開発、治療法研究が主流となっていますが難点は恩恵を享受できるのが世界70億人のほんの一握り。
長期的な安全性もまだ不明です。
各国が医療財政の破たんを防ぐには、治療法の開発では無く、食生活、生活環境、生活習慣などの改善による予防法模索しかありません。
このような厳しい状況下で医学界、製薬業界の拝金的、金権的な欲望を懸念し、距離を置くランゲ博士などの超有力、かつ良心的な勢力が健在なのは嬉しい現実です。
遺伝子操作による新しい治療法は画期的だけに安全性に不安があり、長期的な結果が出るまでには数十年以上が必要です。
技術的には人間をデザインして新たに作り上げることが可能となっている遺伝子細胞学の進化は、並の人の想像をはるかに超えていますが、これまで遺伝子工学により人工的に作り上げられた哺乳類の実験動物は非常に短命であったことが知られており、安全性を得るにはまだまだ時間が必要。
先端治療を享受できる富裕層にも安全性の高いランゲ博士の研究成果は重要です。
3. ティティア・ランゲ博士のプロフィール
ランゲ博士(Titia de Lange)は1955年アムステルダム生まれの女性医学者。
アムステルダム大学でバイオ化学修士となり、オランダがん研究所(Netherlands Cancer institutes)
に勤務。研究所在籍時に同大学より博士号を授与されました。
1985年から1990年まではポスト・ドクターとしてカリフォルニア大学サンフランシスコ校のハロルド・バルマス研究所(Harold Varmus lab)で学び現在はアメリカがん協会とマンハッタンのロックフェラー大学細胞学、遺伝子学研究所の教授を兼務しています。
ランゲ博士はオランダがん研究所在籍時に博士号を取得したころから、癌(がん)と長寿を司るテロメア(telomeres)に関心を持つようになり、テロメア探究がメジャーなターゲットとなっていました。
人類の生死を左右しているだろうテロメア(telomere)とテロメラーゼ(telomerase)の機能解明は、長寿の達成と病から解放、特に癌完治の可能性を示唆します。
長寿の秘密を細胞内のテロメアに見出し、ノーベル医学生理学賞を受賞したのはエリザベス・バックバーン(E.Blackburn)博士。
永らくカリフォルニア大学サンフランシスコ校に在籍していましたが、そこでポスト・ドクター研修中のランゲ博士(Titia de Lange)を知ることになります。
バックバーン博士が「寿命の鍵となっている紐状のテロメアを活性化させる酵素の強化や、繰り返し短縮(切断)させる酵素を阻害する酵素の活性化が長寿の鍵」となることを突き止めた功績は
偉大です。
現在はソーク生化学研究所所長(Salk Institute for Biological Studies)。
ソーク生化学研究所はポリオを発見したジョナス・ソーク博士(Jonas Edward Salk)により創立されました。
風光明媚なカリフォルニア州サンディエゴのラホヤに立地しています。
ランゲ博士がロックフェラー大学に招かれ、実験室を与えられて研究を続けていることは、彼女がテロメア研究の継承者として、協会長老のバックバーン博士に見込まれ、推奨されたことの証でしょう。
ノーベル医学生理学賞(2009年)を受賞したテロメラーゼの発見: テロメラーゼはレスベラトロール研究の土台
2013年にランゲ博士はカリフォルニアのフェイスブックなど新興IT企業家が創設した生命科学の難関突破賞(The Breakthrough Prize in Life Sciences)で約3億円を授与されました。
4. SIRT6がエネルギー産生経路を決める
ランゲ博士の研究するサーチュインの効果で重要なのは人体にストレス抵抗性をくれることですがサーチュインの主な役割は、ほとんどのエネルギー産出に関与することです。
ガレンテ博士らもランゲ博士同様に安全性の高いサーチュイン活性化は食材でということを認めています。
サーチュインは食物による糖分の摂取が多すぎればエネルギー産出をせず、食物が適正量ならば、必要分のみを産出します。
体に必要な燃料量から食物の分量をサーチュインが決めているともいえます。
癌はATP(エネルギー)を作るのにグリコ―シス(glycolysis:解糖系)を特異的に利用しますからSIRT6はガン予防に重要な役割を果たしているのです。
ガレンテ博士らは「SIRT6が癌抑制因子の覚せい剤となっている」と述べています。
SIRT6は代謝効果を始め、様々な効用があります。
特に細胞がATP産生に際してミトコンドリアからか、または解糖系(glycolysis)か、どちらによりエネルギー産生を図るか決める時です。
SIRT6は重要なサーチュインでエピゲノムに影響を与えます。