10月は世界乳がん注意月間(Breast Cancer Awareness Month:BCAM).
1985年に米国の全米がん協会が製薬会社の協賛で始めた行事.
National Breast Cancer Awareness Month (NBCAM)
90年代の初めごろよりピンクリボンが民間癌基金などの行事シンボルとなりました.
発祥の米国では大統領が早期発見を訴え、ホワイトハウスがピンクに染まります。
(official press photo by the White house.)
危険因子の酸化酵素CYP1B1とダイオキシンTCDD
1.乳がんを防ぐブドウ・レスベラトロール(resveratrol)
世界では毎年約138万人の乳がん患者が発生.
45万8千人が死亡するといわれます。
乳がんは不妊や未婚女性に多いといわれますが原因はいまだに不明。
アメリカでは最大原因を都市化と西欧風ライフスタイルによる
肥満、糖尿病、動脈硬化を原因とする遺伝子変異と捉えています。
早期発見が完治のカギですが、死者の内、約26万9千人は経済面から
発見が遅れる低所得層が多い国。
これらの国は毎年着実に患者数が増加しています。
ネブラスカ大学がん研究所*教授のエリーナー・ローガン博士(Eleanor G. Rogan)が
主筆を勤めた研究「少量のブドウ・レスベラトロール(resveratrol)が乳がんを防ぐ」が、
2008年7月8日に出版されたアメリカがん研究協会の「がん予防研究」誌7月号に掲載されました
(a journal of the American Association for Cancer Research)。
博士らは
「ブドウ・レスベラトロールはエストロゲン遺伝子のがん細胞転化を阻害し、癌生成過程の
第一段階を予防する能力を持つ」
「この作用は乳がんになる全ての
プログレッション(がん細胞の増殖)を防ぐだろうと考えている」
と述べています。
(*Eppley Institute for Research in Cancer and Allied Diseases
at the University of Nebraska Medical Center)
2.ブドウ・レスベラトロールがエストロゲンの作用を抑制する
エリーナー・ローガン博士らの研究では乳がんになる細胞機能に、ブドウ・レスベラトロールが
どのように作用するか、その効果を測定しています。
乳がんの形成は患者の遺伝子の相違や異なった要因などによって、複雑な段階を経ます。
しかしながら多くの乳がんのエネルギーがエストロゲンの増加であることは多くの科学者に
異論がありません。
エストロゲンは遺伝子細胞の転化形成に反応し、集約させます。
博士らはブドウ・レスベラトロールがこの 転化形成を抑制することを発見しました。
3.少量のブドウ・レスベラトロールで乳がんが防げる
特筆すべきは本当に僅かな量のブドウ・レスベラトロールが、細胞内でのエストロゲン転化作用を
防ぐことができることです。
実験ではリットル辺り100マイクロ・モル(µmol/L )までのレスベラトロール を投与しましたが、
10マイクロ・モル(µmol/L)で がん転化を防ぐことが判りました。
これは赤ワインをグラス一杯飲む量。
グラス一杯には通常9から28マイクロ・モルのブドウ・レスベラトロールが含まれます。
(産地、収穫年、製造方法、保存方法、経年によりブドウ・レスベラトロールが0に近い
赤ワインも多数あります)
*英国中部のレスター大学癌研究所のカレン・ブラウン教授(Professor Karen Brown)らによる
下記の研究があります。
「Red wine chemical remains effective against cancer after the body converts it:
赤ワインの化学物質(ブドウ・レスベラトロール)は体内化学反応でガン退治の有効物質に変換」
この研究ではブドウ・レスベラトロールは硫化レスべラトロール(resveratrol sulfate)や
グルクロン酸抱合代謝産物(glucuronide metabolites)に代謝された後も細胞内に取り込まれており、
ブドウ・レスベラトロールの細胞内濃度はこれまで考えられていた以上にはるかに大きくなっていました。
4.乳がんを発現させる二つの危険因子(リスク・ファクター)
エリーナー・ローガン博士の実験では、ブドウ・レスベラトロールが乳がん発現の
リスクファクターとして知られる二つの物質、CYP1B1と猛毒ダイオキシンの
テトラクロルジベンゾ-p-ジオキシン
(Tetrachlorodibenzo-p-dioxin:TCDD)を抑制することも発見されています。
この働きはブドウ・レスベラトロールにエストロゲンを不活性化させる
キノン・リダクターゼ(quinone reductase)*を導入する作用があることを意味します。
エストロゲンを不活性化させることによりそれに伴う癌発現リスクを減らすわけです。
エリーナー・ローガン博士らは今後もこの研究を進展させ、人間に適用した研究に
進めていくと述べています。
*キノン・リダクターゼは多様な呼び名がありますが代表的なのが
NAD(P)H:quinone oxidoreductase.
キノン・リダクターゼはエストロゲンを不活性化するなど
化学反応の触媒となる酸化還元酵素.
*エリーナー・ローガン博士らの所属するアメリカ癌研究協会
(the American Association for Cancer Research:AACR)は
1907年に設立された癌予防治療の専門組織で、世界最古、最大。
協会には全米、世界80カ国の研究者や癌からの生存者、28000名が加盟しています。
協会では癌の予防、治療に関する6種類の専門誌を発行しており、
今回のジャーナルもその一つです。
5. レスベがブドウ・ピセアタンノール(Grape Piceatannol)に代謝されCYP1B1を阻害
CYP1B1は酸化酵素の一つで、チトクロームP450(cytochrome P450scc)の分子種。
細胞内滑面小胞体の構造部分に結合しています。
ダイオキシンのひとつであるTCDDに誘導されることも知られており、乳がんのみならず、
悪性腫瘍、ガンの誘導物質としてマークされています。
CYP1B1はエストロゲンを代謝する内在性基質を持つといわれ、エストロゲンが関係する癌発現に、
特に深く関わります。
ブドウ・レスベラトロールはこの因子に出会うとガン遺伝子の発現を抑制する
天然ブドウ由来のブドウ・ピセアタンノール(Grape Piceatannol)に代謝され、CYP1B1を
阻害するといわれます。
ブドウ・レスベラトロールのピセアタンノールは研究者からブドウ・ピセアタンノールと
区別して呼ばれ、がん遺伝子発現抑制など様々な化学反応の研究対象となっています。
CYP1B1活性化の大小には人の持つ遺伝子が関係するという研究がありますから、
同条件下でもがん発現には個人差があるようです。
6.女性が注意したいダイオキシン(TCDD)汚染の魚介類
テトラクロルジベンゾ-p-ジオキシン(TCDD)などダイオキシン類(dioxin)は
発ガン物質、免疫機能障害、生殖機能障害、神経障害、肝臓障害、高脂血症原因等が疑われる毒素。
乳がんなどの危険因子ばかりでなく生殖機能障害にも関与するといわれ、魚介などでは生殖機能異常が
多数報告されています。
人間の生殖機能にも異変が起きる原因が疑われる物質のひとつです。
ダイオキシンといわれる物質は、3種類の化学物質の総称*で
テトラクロルジベンゾ-p-ジオキシン(TCDD)は中でも猛毒といわれます。
毒性が見られるダイオキシン類は、この3種類から合計239種類の化学物質が分析されています。
ダイオキシンは主としてごみの焼却、工場の排ガスなどが発生原因となります。
陸上で発生したダイオキシン類は大気や河川などにより運ばれて湖沼、海などに蓄積し、
水中に溶け込んで魚介類の、主として脂身を汚染します。
特別なケースを除き、人間のダイオキシン中毒原因は、少量を大気中から吸入する他は、
魚介類の摂食によるものが大部分。
ダイオキシン類は食の連鎖から、大型の魚介類と甲殻類に多く含有されます。
農林水産省の「平成XX年度農畜水産物中のダイオキシン類の実態調査」を検索してください。
キーワードは「農畜水産物中のダイオキシン類の実態調査」
(参考)ダイオキシン(dioxin)とは3種類の化学物質の総称
*テトラクロルジベンゾ-p-ジオキシン
(TCDD:Tetrachlorodibenzo-p-dioxin)
=ポリ塩化ジベンゾ・パラ・ジオキシン(ポリ塩化ジベンゾダイオキシン)
(PCDDs:Polychlorinated dibenzo-p -dioxins) =(2378-tetrachlorodibenzo-p -dioxin 2378-TCDD)
*ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs:Polychlorinated dibenzofurans :2378-tetrachlorodibenzofuran 2378-TCDF )
*コプラナー・ピーシービー(Coplaner PCB:Coplaner Poly Chlorinated Biphenyl )
(参考)ブドウ・レスベラトロールはスチルベノイド
染色促進などに使用するスチルベン(stilbene)と呼ばれる化学物質があります。
ギリシャ語で「輝く」という意味ですが、この水酸化派生体の一つにスチルベノイド(Stilbenoids)と
呼ばれる物質があります。
化学的にブドウ・レスベラトロールはこのスチルベノイドです。
生化学的にはフラボノイドのクマリン、リグニンとともにフェニルプロパノイド代謝(Phenylpropanoid pathway)で誘導されます。
フェニルプロパノイドは抗インフルエンザ・ウィルス薬タミフルを造るのに必要な シキミ酸を前躯体とします。
植物には病害虫、悪天候などから身を守るファイトアレキシン(フィトアレキシン:phytoalexin)という
物質がありますが、ブドウ・レスベラトロールはこの範疇に入ります。
レスベラトロールとは総称で、ブドウ・レスべラトロールに関して言えば炎症を防止する
ヴィニフェリン(viniferin)、配糖体のピセイド(piceid)なども含まれます。
レスベラトロールはトランス、シスの二つの異性体で存在しますが、
トランス型は紫外線や熱によりシス型に変換して不安定になりますから活性を維持するのが
難しい物質。
植物でトランス・レスベラトロールが最も多く含有されるのはぶどうの皮です。
初版:2013年10月
改訂版:2015年10月