ベトナム戦争で顕在化した猛毒ダイオキシンの健康被害
1960年代に成人だったアメリカ人は、ベトナム戦争で有機合成毒ダイオキシン類が使用された「枯葉作戦」を忘れることが出来ません。
空中散布された約5,000万リットルといわれる枯葉剤は猛毒のダイオキシン類TCDDを含有し森林、原野の30%を汚染したといわれます。
この猛毒はその後ウクライナの政争でも使用されて、国際的に情報が広まり、アメリカ人が合成有機化学の新開発医薬品や殺虫剤、除草剤、農薬、食品添加物、人造甘味料を徹底して敬遠する素地となりました。
有機化学工業を世界的にリードしてきたアメリカが莫大な富を蓄えた代償として、多くの国民の重篤な健康被害が存在しています。
ベトナム南北戦争より帰国した米国兵士の子.
枯葉剤として散布されたダイオキシン化学製剤PCDDsの 催奇毒素により両手なしで誕生.
母子、父子汚染の後遺症例として下記写真と共にホーチミン市の 戦争記念博物館に展示されている.
1.ウクライナのユシチェンコ元首相がダイオキシン中毒
EU、ロシアがせめぎ合うウクライナ。2000年頃より内乱が予想された騒乱が続いていました。
2004年に大統領選に立候補したユシチェンコ元首相(Viktor Yushchenko)とヤヌコーヴィチとの争いは激しく、選挙のやり直しが再度となるほどの混乱。
その当時、ユシチェンコが政敵に大量のダイオキシン類(PCDDs:TCDD)を盛られたのではないかと話題になり、改めてダイオキシンの猛毒性が注目されました。
2.寿司とザリガニでダイオキシン毒(PCDDs)を盛られる?
ユシチェンコ元首相は、2004年9月に政敵側の国家保安局との会食で、寿司とザリガニ(スープ?)を食べたそうです。
急病で倒れたのは9月ですが、ダイオキシンが疑われたのは10月、11月になってからでした。
当時、皮膚が異常に侵されるクロールアクネ(chloracne:塩素ざしょう疹)により、別人のようになった人相が報道されています。
オーストリーの医師によれば、血中から検出したダイオキシン類は通常の1000倍(6000倍という報道もあります)といわれる濃度があったそうです。
この時点ではダイオキシンの種類が判明していませんでしたが、12月17日の報道では、ヴェトナム戦争で使用された*TCDDの一種をオランダの医師が検出しました。
*2378-TCDD:四塩化ジベンゾ・パラ・ジオキシン
3.オレンジ・エージェントによるクロールアクネ(chloracne:塩素ざしょう疹)とは。
クロールアクネは重症のニキビ様皮膚疾患。
ヴェトナム戦争で使用されたオレンジ・エージェント(Agent Orange)と呼ばれる化学兵器の人類被害が有名。 その催奇性は皮膚障害以外に数々の悲劇を生み出しています。
オレンジ・エージェントはゲリラの隠れ場所であるジャングルや草原の除草を目的とする、「枯葉作戦:Operation Ranch Hand」で使用されたポリ塩化ジベンゾダイオキシン(PCDDs)を主剤としたTCDD の化学兵器。
数多いダイオキシン類のなかでも猛毒で知られているのがTCDD です。
TCDD :テトラクロロジベンゾジオキシン (Tetrachlorodibenzodioxin)
青や白の容器の他の兵器に対して、オレンジ色のスティール缶容器に封入されていました。
戦中からヴェトナム国民やアメリカの軍人にリンパ腫、腎臓がん、胎児異常、皮膚障害、神経障害など重篤な被害が多発し、現在でも、ヴェトナム人と、アメリカの退役軍人が後遺症に悩んでいるといわれます。
4.ダイオキシン(dioxin)とは.(PCDDs:TCDD)
ダイオキシンはごみの焼却、工場の排ガスなどが発生原因となります。
陸上で発生したダイオキシン類は大気や河川などにより運ばれて湖沼、海などに蓄積し、水中に溶け込んで魚介類の、主として脂身を汚染。
特別なケースを除き、人間のダイオキシン中毒原因は、少量を大気中から吸入する他は、魚介類の摂食によるものが大部分。
ダイオキシン類は食の連鎖から、大型の魚介類と甲殻類に多く含有されます。
ダイオキシン類は乳がんなどの発ガン物質、免疫機能障害、生殖機能障害、神経障害、肝臓障害、高脂血症原因等が疑われる毒素。
ダイオキシンといわれる物質は、以下三種類の化学物質の総称です。
毒性が見られるダイオキシン類は、この三種類から合計239種類の化学物質が分析されています。
*ポリ塩化ジベンゾ・パラ・ジオキシン(ポリ塩化ジベンゾダイオキシン)
(PCDDs)Polychlorinated dibenzo-p -dioxins (2378-tetrachlorodibenzo-p -dioxin 2378-TCDD)
*ポリ塩化ジベンゾフラン(PCDFs)Polychlorinated dibenzofurans (2378-tetrachlorodibenzofuran 2378-TCDF )
*コプラナー・ピーシービー(Coplaner PCB:Coplaner Poly Chlorinated Biphenyl )
5.深刻な日本近海のダイオキシン汚染
平成16年3月には、水産庁が、平成15年までの魚介類102種類に含有するダイオキシン類の調査結果を発表しました。
この調査は、日本近海、沿岸の魚介類からのダイオキシン類検出が、輸入や遠洋物に較べ、30%-800%も上回ることを報告しています。
特に日本近海の甲殻類の汚染が進んでいることが気になります。
6.大型魚ほどダイオキシンに汚染される
魚も食の連鎖がありますから小魚ほど安全なのは言うまでもありません。
また、産地の表示が明確に表示されるようになりましたから、外国の汚染が進んでいない海域、汚染の少ない国内産地の魚介類を選択するのも、一つの考え方です。
水産庁の検査報告には、魚種別、産地別の明細があります。 ただし魚介類のダイオキシン類含有量は個体によってもばらつきがありますから、 完璧な対策ではありません。
出来るだけ大きな魚の脂身を避けて、同種を多量に摂食することを控えること、生産地に関心を持つことが賢明といえます。特に妊婦には母子汚染の可能性があります。
7.ダイオキシン類対策特別措置法
日本は工業立国、海産資源生産国ですから、ダイオキシン類の害は人事ではありません。
平成11年7月には、立法により対策を講じています(ダイオキシン類対策特別措置法)。厚生労働省や水産庁は、平成11年の立法を受けて、ダイオキシン健康影響調査委員会の設立や、水産物の特別調査を実施して、その対策に腐心しています。
厚生労働省の健康調査は、当初、清掃事業に従事する作業員の健康問題でしたが、現在は、著しく改善の方向がみられるようになりました。
8.ダイオキシンの寛容量
現状ではダイオキシン類の摂取を避けることができません。
大気中と食事によるダイオキシン類毒素の寛容摂取量(TDI)は体重1 kg当たり約1.53pg-TEQ/dayといわれていますが、データ蓄積が浅いために半世紀後の安全性が保証されているわけではありません。
食事からの摂食量が約1.49 pg-TEQと大部分を占めますが、そのうち魚介類が1.29 pg-TEQくらいになるようです。
(厚生労働省平成16年度発表。食品からのダイオキシン類一日摂取量調査等の調査結果)。
これまでの研究では、4 pg-TEQくらいまでは、皮膚疾患などの毒性が見られないということですが、当然のことながら、健康で、平均的な遺伝子を持つ人の場合でしょう。
考慮しているのは急性、またはそれに近い発症が前提。数十年に及ぶ長期的な安全性ではありません。
国連の食の規格に関する委員会、コーデックス(CODEX)では安全基準値は発表していません。
水産庁の報告を根拠に、計算例を挙げれば、100グラムの日本近海産の甲殻類に含有される,
ダイオキシン類は約80-750ピコグラム、輸入や遠洋物で1.7-9.5ピコグラムです。体重60kgの人の最大許容量は240ピコグラム位となります。
9.寛容量の単位.TDI(耐容一日摂取量)、TEQ(毒性等量)、1pg(ピコグラム)
TDI(Tolerable Daily Intake:耐容一日摂取量)
TEQ(Toxic Equivalent:毒性等量)
最も毒性が強い2378-TCDD(四塩化ジベンゾ・パラ・ジオキシン)の毒性に換算して表したもの
1pg(pico gram:ピコグラム)=1 兆分の1g
上記はWHOが発表している1日の安全摂取量(目安)。
日本も追従していますが、欧米と人口過密な日本が同じ数字では環境条件が異なりすぎます。
半減は7年といわれますが最近の汚染度調査公表は知る限りありません。
ダイオキシンはダメージが少しずつ蓄積し、大事に至るのは数十年後にもなる遅行性。
現在では安全な摂取量は誰にもわからず、基準は推測数字と理解すべきでしょう。
また中国から飛来する黄砂、大気汚染などもダイオキシンを含むといわれ、直接、間接に発がんを促進すると考えるべきです。
2004年に初版掲載
2008年7月24日改定
2013年8月16日復刻
2015年2月27日改訂
2018年2月08日改定