性ホルモン、ステロイドを合成するトリテルぺンは
植物成分のテルペノイド(terpenoid)
1.テルペン(terpens)はテレピン油(turpentines)
テルペンとは、植物の精油(essential oils)、植物樹脂(oleoresins)に含有されている、
炭素鎖構造(脂肪酸に特徴的な構造)を持つ二次代謝物質。
1700年代に松の精油(樹脂成分)より最初に発見され、
テレピン油(turpentines)が通称となりました。
テレピン油は絵の具混合用の精油として油絵を描く方に知られた樹脂精油です。
同じく針葉樹の精油(樹脂成分)より抽出されるバルサム油(balsams)も同様な成分です。
天然のバルサムは古くからレンズを張り合わせる材料でした。
合成樹脂の出現で駆逐されましたが、芳醇な香りはアロマテラピーの素材としても
愛されています。
良質な針葉樹系のテレピン油は、
ストラスブール・テルペン(Strasbourg turpentine)、ベニス・テルペン(Venice turpentine)、
ボルドー・テルペン(Bordeaux turpentine)、カナダ・バルサム(Canada balsam)など
産地名がついています。
2.テルペノイド(terpenoid)を形成するイソプレン(isoprene:C5H8)
テルペン類の中で重要なのは分子構造に変化を与える官能基をもつテルペン。
テルペノイド(terpenoid)と呼ばれています。
テルペノイドを形成するのがイソプレン。
イソプレン(C5H8)は炭素数(C)が5個の化合物で、
別名ヘミテルペン(Hemiterpenes:C5H8)とも呼ばれます。
イソプレンを単位ユニット(isoprene units)としてテルペノイド類を分類しています。
したがってイソプレンで形成されるテルペノイドは、ステロイドとともに
イソプレノイド(isoprenoid)類と呼ばれますが、
二次代謝(後述)の経路別分類ではメバロン酸経路に分類されています。
イソプレンは揮発性の有機化合物ですが、植物の耐熱性に寄与する
化合物とみられています。
天然、合成のゴムは摩擦により異臭を発しますが、これはイソプレンが
放出されたもので、大気汚染の原因の一つともいわれています。
3.モノテルペン(monoterpenes:C10H16)
イソプレン単位が二つのテルペンがモノテルペン。
18世紀に最初に発見されたテレピン・オイルはモノテルペンです。
自然界に400種類は知られており、匂い(アロマ)の基となります。
アロマテピーに使用される代表的なテルペン精油類には
ミント(spearmint)、ミルセン(myrcene)、ゲラニオール(geraniol)、リモネン(limonene)、
カルヴォン(carvone)、カンファー(camphor)、ピネン(pinene)、ニガヨモギ(wormwood)等があります。
森林浴などで話題となるフィトンチッドはピネンが主成分のテルペン類。
ワームウッド(ニガヨモギ:Artemisia absinthium)の精油からは、
有名なリキュールのアブサン(absinthe)が造られます。
糖と結合して、毒性も持つといわれるイリドイド配糖体(iridoid glycoside)の
イリドイドも、モノテルペンですが、変形モノテルペンと呼ばれます。
アカネ、くちなし、ノニ、センブリ、ゲンチアナ(リンドウ類)などが
有毒なイリドイド配糖体を含有します。
イリドイド配糖体を持つ植物は生薬門家以外が処方しなければ危険です。
4.セスキテルペン(sesquiterpenes:C15H24)
イソプレン単位が三つのテルペン。
実用されてきたセスキテルペンは西洋フキのテルペノイド、ペタシン(petasin)が著名。
過去にはヨーロッパで偏頭痛、感冒などの治療に使用されていました。
花粉症に良いとされ、サプリメントがありますが、近年は肝障害、腎障害をおこす有害性
報告が増加し、欧米、日本では禁止か、使用自粛が勧告されています。
西洋フキ(Common Butterbur:Petasites hybridus)は
日本で食用、薬用(葉を使用)にしている蕗(フキ:Japanese Butterbur)と
大差ありませんが、欧米や中国では一般的にフキは食用ではありません。
西洋フキには有毒性を持つ*アルカロイドのピロリジジン(Pyrrolizidine alkaloids)が
含有されています。
その他のセスキテルペン含有生薬にはキク科の
木香(モッコウ:Saussurea lappa)があります。
インド、中国が主産地で根茎が消化器系疾患に使用されます。
(植物毒素の大部分はアルカロイド由来です.
医用では麻酔、神経系、心臓系に合成アルカロイドが使用されます)
「麻薬、覚醒剤となるエフェドラ(Ephedra)とエフェドリン(ephedrine):
麻薬と植物のアルカロイド」
ロータス(蓮)の有毒アルカロイドが美容、ダイエットの有効成分?
5.ジテルペン(diterpenes:C20H32)
イソプレン単位が四つのテルペン。
セロリ(celery)のbeta-selinine、ショウガ(ginger)のジンジベリン(zingiberine)、
ビタミンAなどに含まれます。
ジテルペノイド(ジテルペン)は年間1兆円を売り上げたといわれる抗がん剤の
タキソールの主成分として知られているテルぺノイド。
タキソールは西洋いちい(ヨーロッパイチイ:Taxus baccata)、
タイヘイヨウイチイ(Taxus brevifolia)由来の抗がん剤です。
北海道にはオンコとも呼ばれる近似種(Taxus cuspidata)があります。
樹皮より抽出されたジテルペノイド(10-デアセチルバッカチンⅢ:10-deacetyl baccatins)が主成分。
乳がん、子宮ガン、肺ガン、肝臓ガン等、いろいろな部位の悪性腫瘍に
使用されます
タキソールは細胞の微小管(microtubule:マイクロチューブル)に結合し脱重合を阻害、
正常な細胞分裂の進行を妨げるといわれますが
循環器系や腎臓、副腎、膵臓、肝臓など内臓に強い毒性があります。
6.セスタテルペン(sesterterpenes:C25H40)
イソプレン単位が五つのテルペン。
真菌類などに存在するといわれますが一般にはなじみがありません。
7.トリテルペン(triterpenes)C30H48:テルペノイドの王様
イソプレンの3ユニットが二つ結ばれた構造を持ちます(3+3 unit)。
トリテルペンと次のテトラテルペンは3ユニット、4ユニットが二重になるため
ダブルユニット構造と呼ばれます。
トリテルペンは、コレステロール、ステロイド、エストロゲン(estrogen)、
プロゲステロン(progesterone)、テストステロン(testosterone)等を作る
重要なテルペン。
トリテルペンは、ほとんどの植物に存在し、天然には80種以上のトリテルペン骨格の
存在が分析されています。
トリテルペンは*サポニンの解説に記述されていますが、
高麗人参など人参類、きのこ類の含有成分として知られています。
*植物由来のトリテルペンについては
性ホルモン、ステロイドを合成するトリテルぺンは 植物成分のテルペノイド(terpenoid)
トリテルペンの基本骨格を形成するのはスクワレン(C30H50)
(スクワレンは鮫など動物ばかりでなく植物にも広く存在します)。
スクアレンは2経路の変換をしますが、一つはトリテルペン、
もう一つはラノステロール(Lanosterol)を経てコレステロールC27H46O(386.66)へと
変化する経路です。
トリテルペン、コレステロールはスクアレンから
二つの酵素(Squalene epoxidase、Squalene oxidocyclase)によって合成されます。
スクワレンからトリテルペンやステロイド類のコレステロールが生成されるメカニズムは、
スタンフォード大学のウィリアム・ジョンソン教授(William Summer Johnson:1913~1995:
ステロイド類の合成作用解明に多大な貢献があった)らによって、
1970年ごろには解明されていました(Model Studies of Squalene Cyclization)。
肝臓障害に効果があるといわれ、青紫蘇などに含有する
オレアノール酸(oleanolic acid)やウルソール酸(ursolic acid)の
分子構造もトリテルペンです。