ヴェトナム旅行では蓮(ロータス:Lotus:Nelumbo nucifera)の実の菓子や蓮茶、蓮の葉茶がおみやげの定番。
ロータスの種を砂糖に漬けた菓子
レストランでは蓮の実のターメリックライス、サフランライスを食した方も多いでしょう。
食用植物にはビタミン、ミネラル、繊維質以外に三大健康成分といわれる生理活性化物質があります。
その三つとは野菜、果実には癌(がん)や心血管病の予防や再発防止のポリフェノール。
香辛料やハーブには精油(essential oils)、植物樹脂(oleoresins)のテルぺノイド。植物性生薬にはアルカロイド。
このうち、モルヒネに代表されるアルカロイドは危険な物質でもあり、用法、用量が難しいために、アルカロイド含有食品には十分な知識と経験が必要です。
「旧フランス領インドシナの食文化(3):
ヴェトナムの蓮(はす)食文化は不眠症、消化器疾患に著効?」
蓮(ロータス:Lotus:Nelumbo nucifera)
日本にも蓮の葉茶が輸入されるようになりダイエットや美容目的に愛用者がいるようです。
安価なお土産の蓮茶は蓮の葉は使用せずに緑茶がベース。合成香料での味付けですから、かえって安全性が高いといえます。
中国にはダイエットに良いという植物はいくつもありますが、ほとんどがセンナに代表される下剤。
センナのアントラキノンは強いアルカロイドですから若い女性に事故が絶えません。
蓮の葉茶や実のお菓子などが美容、ダイエットに良いとの根拠は、知る限りありませんが、広く知られる消化器系統への薬効はイソキノリン・アルカロイドが持つ下剤効果。
それをダイエット効果があると宣伝するのかもしれません。
神経系統への薬効は何らかのポリフェノールと推測できます。
蓮のアルカロイドはイソキノリン( C9H7N:分子量129.16)
異性体のキノリン( C9H7N:分子量129.16)は毒物指定されている劇薬です。
蓮(ロータス:Lotus:Nelumbo nucifera)の実
蓮(Nelumbo nucifera)を重要な食材、生薬と捉えている中国政府はこのような世相を懸念し、近年になり蓮の部位ごとの化学成分、量、活性のメカニズムなど詳細に調べることになったようです。
驚くことに蓮の成分(compounds)は生薬として解っていたものの、安全性など詳しい調査結果を発表した人がこれまでにほとんどいなかったようです。
どの種のアルカロイドがどのくらい、どこに存在するか、活性が高いのは、蓮の成長のどの段階かなどを、液体クロマトグラフィー(HPLC-MS/MS)で計測。
中国政府の意を受けて研究を担当したのは武漢市植物園(Wuhan Botanical Garden)のHAN Yuepeng 教授と、北京市科学アカデミー大学院(Graduate University of Chinese Academy of Sciences)の
DENG Xianbao博士。
調査は中国国立科学基金のサポートで(the National Natural Science Foundation of China)進められ、研究報告が食品化学ジャーナル(Journal of Agricultural and Food Chemistry)に掲載されました。
主題は
「Analysis of Isoquinoline Alkaloid Composition and Wound-Induced Variation in Nelumbo」
蓮の有毒アルカロイドが多い部位
蓮のアルカロイドは各部位に10種類が検出されましたが、すべてはベンジルイソキノリ(benzylisoquinoline alkaloid :BIA) グループ。
葉の膜(Lotus laminae)に含まれていたのは、主としてアポルフィン・アルカロイド(aporphine-type alkaloids)
成長初期から含有量が増え、円熟期で最大となり、老化に伴い減少することが解りました。
胚(はい:embryos)、胚子にはベンジルイソキノリン(bisbenzylisoquinoline-type alkaloids)
根茎(rhizome )のアルカロイドは極微量(trace amount)でした。
アルカロイドは基本的に植物が身を護る物質。
葉を傷つけることにより増えていきます。