第百三十七話:「目黒の秋刀魚・味覚の秋」
名作落語に、殿様が目黒での鷹狩の帰途、空腹を感じ近くの茶屋に立ち寄り、焼きたての秋刀魚を食べ、その美味が忘れられず、後日家臣に所望したところ、房州から生きのいい秋刀魚を取り寄せ、頭を切り落とし蒸して小骨を抜き脂も抜いたものを出したところ、極めて不味く、「房州はいかん。さんまは目黒に限る。」と言う話があります。確かに、昔は目黒川河口まで海が迫っていたので新鮮とは言え、産地の違いが味を決めたのではなく、当時は下魚とされた秋刀魚は幕府要人の口に登ることなく、ましてや城の料理人には、農漁民や職人たちの食べ方をご存じではなかったのも頷けます。この話史家によると、裏付けもあるようで、三代将軍家光は、今も東横線の学芸大駅東に「鷹番町」と、水飲み場の碑文谷公園の「弁天池」が現存するように、当時の鷹狩名所の目黒によく出向き、立ち寄った茶屋坂の「彦四郎爺の茶屋」があったそうです。(広重の「名所江戸百景の茶屋」の題材だった)元来は庶民人気の下魚だったので、江戸時代は季語になっておらず、名句も明治以降の俳人の作に限られるようです。夕空の土星に秋刀魚焼く匂ひ 川端茅舎秋刀魚焼く煙の中の妻を見に ...