1. カッパB核因子とは
NF-kB(Nuclear Factor kappa B:カッパB核因子)は
永い間炎症誘発の本元(prototypical proinflammatory)と考えられていました。
カッパB核因子は免疫細胞、脂肪細胞より産生する
細胞の増殖や自然死(アポトーシス)、免疫応答、遺伝子転写など
生命現象に関与する真核生物の細胞の遺伝子転写因子。
NF-kB(カッパB核因子)はノーベル生理学賞を1975年に受賞した
デービット・ボルティモア博士(David Baltimore)らが
1985年に発見した?(諸説あります)といわれますからまだ約30数年前。
古い話ではありませんが、この分野の研究者には大きなテーマであり、、
すでに7-8万本に近い論文があるのではといわれる、たんぱく質の複合体です。
これまでの研究ではNF-kB(カッパB核因子)は、心臓血管病、糖尿病、癌、悪性腫瘍、
クローン病、関節リュウマチ、皮膚老化など免疫不全など数多くの免疫系、炎症系の難病への関与が
示唆されています。
細胞老化と癌その1で取り上げたマイオカイン(ミオカイン)は300種類以上が
あるのではといわれる神経伝達物資ホルモン(サイトカイン:cytokine)グループの総称。
分化脂肪細胞(differentiated adipocytes)や脂肪細胞前躯体(preadipocytes)において
炎症反応(inflammatory response)を遺伝子発現させるサイトカインに
腫瘍壊死因子(TNF-α:Tumor necrosis factor)、インターロイキン類(IL-1β)(IL-6)、
シクロオキシゲナーゼ(COX-2)などがありますが、これらはNF-κB(カッパB核因子)の活性を
制御することで遺伝子発現を減らすことができ、IL-6(インターロイキン-6)、
PGE2(炎症に関わるプロスタグランディン)の分泌を減らすことも解明されています。
炎症を主たる原因とする肥満、癌(がん)、アトピー、発熱などを制御できる
ということです。
*インターロイキン(IL-1βIL-6など:interleukins) :炎症の原因物質
*シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2:cyclooxygenase-2) :炎症に関わる酸素添加酵素
*プロスタグランディンE2(PGE2)(prostaglandin E2):E2は炎症に関わる
生理活性物質プロスタグランディン
2 . iPS細胞とヒト皮膚線維芽細胞(Human Dermal Fibroblasts)
万能細胞(幹細胞)と呼ばれるES細胞は卵子から作りますが、
ノーベル賞を受賞した山中博士のiPS細胞は人の皮膚から摂取した
ヒト皮膚線維芽細胞(Human Dermal Fibroblasts)を使用した万能細胞。
皮膚には繊維芽細胞(fibroblast)の増殖を促進する線維芽細胞成長因子(bFGF)が
ありますが、この因子の増殖には善悪の両面があります。
3.NF-kB(カッパB核因子)が加担する線維芽細胞成長因子の悪玉作用
bFGF(線維芽細胞成長因子)には20種を超える近縁因子があります
線維芽細胞成長因子は皮膚に潤いを持たせる善玉作用だけでなく、
悪玉の癌(がん)や角化細胞(ケラチノサイト:keratinocyte)、色素細胞(メラノサイト)の
生成促進にも関わりますから、サプリメントなどでタンパク質バランス(アミノ酸バランス)を
大きく崩している場合には癌発生など様々な負の面を予想しなければなりません。
加齢と紫外線(Ultra-violet rays-B)の光老化(photoaging)による
皮膚の皺(しわ)、たるみ、色素沈着は、皮膚に存在する
線維芽細胞成長因子(bFGF)、マトリックスメタロプロテアーゼ(MMP)の
過剰増殖が原因となります。
皮膚老化に関わるMMP(matrixmetalloprotease:皮膚基底酵素)には
幾つかの種類がありますが、MMP-1は真皮の1型コラーゲン繊維を分解して、
皺(しわ)の原因となります。
マトリックスとは母体(発生源)のことです。
bFGF(線維芽細胞成長因子)、MMP(皮膚基底酵素過剰増殖)には、
免疫たんぱく質のNF-kB(カッパB核因子)の活性化が関わることが知られており、
この活性化を適正に制御することが癌の発現を抑制し、
肌のアンチ・エージング、美肌への近道となります。
4.コラーゲンの体内産生を促す線維芽細胞成長因子の善玉作用
線維芽細胞(fibroblast)はコラーゲン、エラスチン、
ヒアルロン酸などを産生する重要細胞でもありますから
線維芽細胞の活性にかかわるbFGF(fibroblast growth factor)線維芽細胞成長因子は
皮膚に潤いを持たせる善玉作用の一面を持ちます。
簡単に表現すれば「全ては適正なタンパク質バランスから生まれる」ということです。
悪玉タンパクのNF-kB(カッパB核因子)も適正アミノ酸バランスが保たれている体では
活性化が困難といわれます。
山中博士がips細胞研究を続けるのは京都大学医学部の特別研究所ですが、
京都大学農学部では線維芽細胞によるコラーゲンの体内合成作用機序研究を
進めており、経口摂取したコラーゲン・ペプチドがアミノ酸に分解されて消滅という
説を覆し、骨、皮膚、筋肉、神経細胞などの体組織を形成する(だろう)
ヒト実験に成功しています。
5. NF-kB(カッパB核因子)の活性をブドウ・レスベラトロールが抑制する
この悪玉要素の多い物質の制御に関して、
「NF-kB(カッパB核因子)の活性をブドウ・レスベラトロールが抑制する」という研究が
米国で発表されています。
ブドウ・レスベラトロールは癌(がん)、心臓血管病、糖尿病ばかりでなく、
美肌の維持、再生にも働く、多機能ポリフェノールとして期待されている抗酸化物質。
コラーゲンの体内生成にも深くかかわります。
研究詳細は異分野の方には難解なために省略しますが、本研究はニューメキシコ州アルバカーキの
ニューメキシコ大学医学部(生化学、分子生物学部門)から発表され、
著者はゴンザレスとオーランド両氏(Amanda M Gonzales &Robert A Orlando)。
ニューメキシコ大学医学部は全米でも上位ランクの有力な研究機関。
研究論文は米国の「栄養と代謝2008年6月号」(Nutrition & Metabolism 2008)に掲載されました。
この解説は下記記事からNF-kB(カッパB核因子)の解説に絞って抜粋したものです。