アメリカの知人ジャーナリストからの情報によると、
目下開催中の「デトロイト国際自動車ショー」では、ハイブリッドや軽量化による
燃費性能を打ち出したもの、ポルシェ、アウディ、レクサスなどの
スーパーカー・スポーツカーなど高級機能で勝負する車などに加えて、
トヨタ・ホンダのFCV燃料電池車と米国ベンチャー・テスラのEV電気自動車に
代表される“エコーカーの主導権争い”が話題を呼んでいるようです。
中でも、昨年末の「ミライ」発表時に、北米トヨタのレンツCEOが「EVは充電に
長時間を要し(1時間内外と言われる)も要し、
走行距離も短かすぎる(テスラ発表では300KM)のに対し、
FCVは僅か3分の充電で600KMまで走れる。」と豪語したのを受けて、
今般のショーの記者会見で、テスラのマスクCEOが「水素の燃料自動車は
極めて馬鹿げている。水素の安全管理と貯蔵の難解さは問題だ。」
と物議を醸す発言をしたそうです。
20~50年も先を睨んだ世界的環境規制対応合戦の火ぶたが切られたと言えますが、
主として日本勢の水素自動車対欧米勢の電気自動車の性能、コストの
改善競争に加えて、今後のPR論戦も激化しそうな雲行きとなっております。
時あたかも、安倍首相が環境問題の切り札として
「水素時代の幕開け・規制緩和の加速」戦略を打ち出したこともあり、
水素エネルギー関連業界も俄かに色めきだっているかに見受けられます。
トヨタの発表によると、「ミライ」車市販の予約販売数が、目標の400台を大きく上回り
1500台に達したそうで、今後の世界的な普及を加速させる狙いもあって、
FCV関連特許5680件を、すべて無償開放したと報じられています。
目下、水素ステーションが4カ所しかなく、この問題解決のためには、高圧水素タンクの
安全設営には広大な敷地や厳しい立地条件と安全基準の緩和が急務であり、
水素社会の実現というバラ色のイメージに対して、公と民の巨大な投資を
どう賄ってゆくのかも問われているのも現実です。肝心の水素自動車自体の
量産普及もさることながら、水素液化プラント、液化水素輸送網、水素ステーションと
言った基本的なインフラの整備が欠かせないからです。
因みに水素は自然界に存在する一次エネルギーではなく、アルカリ水電解なり、
炭化水素の組成を改良・改質することで取り出される二次エネルギーなので、
電気・熱量が必要となるなど、技術的、コスト的難題を多数秘めていることも
十分考慮に入れた事業化であるべきと考える次第です。
さらに気がかりなのは、紙誌に報じられている
数字から想定される水素製造から、配送パイプライン網設置、
補給ステーション数拡張までの総コストは、通算すれば1兆円を大幅に超えるものと
推定されます。
安易な「水素社会」願望に水を差すのは本意ではありませんが、もう一点重要な
心配の種を上げておきましょう。先に述べたように、二次エネルギーである水素を
得るためには、相当な電力が要求されるうえに、工法プロセスによっては、
折角クリーンエネルギーを謳いながら、皮肉にも炭酸ガスの排出問題があり、
その回収コストにも配慮しなければなりません。すなわち、脱化石燃料、脱資源国からの
エネルギー輸入回避を趣旨とするなら、水素エネルギーへの希望的観測により、
拙速ともいえる過大な資本投下を進める前に、今一度冷静な観点から国益に見合った
環境・エネルギー戦略を熟慮、優先すべきではないでしょうか。
そして、優先順位をもっと上げて検討すべきエネルギー戦略は、安全確認の仕方をより
多角的具体的に見直し、停止中の原発のうち条件がクリアーされたものから順に、
可及的速やかに再稼働し、より安定的な電力供給が期待でき、環境問題点に対しても
無難な解決に導く方策に行き当たります。原発の安全性に関しては、議論の余地も
ありますが、少なくとも国際的な常識の範疇で政策を進めるのが、妥当と考えられます。
また、我が国独自の活断層問題にしても、これまでの耐震状況などを、
具体的に分析することで、例えば新潟地震に耐えた柏崎刈羽原発の例などにも鑑み、
やみくもに安全性を否定するような短絡的な審査は見直すべきではないでしょうか。
福島第一の場合も、明らかなのは津浪による停電が事故の原因であり、地震には
耐えていたことが分かっていますし、福島第二原発や女川原発なども、
少なくとも耐震安全性(迅速確実な応急処置も含めて)が証明された訳ですから、
こうした具体例を参考にして、現実的、総合的な安全基準を設定すべきだと思います。
少なくとも、直下に活断層あれば、即、原発停止と言ったような短絡的な
結論がまかり通るような、ヒステリックな対応には疑問を覚えます。
原子力規制委員会には、もっと冷静にして、まともな検討を切望する次第です。
拙速と言えば、福島第一原発事故後の民主党政権による理不尽であり、
過剰反応ともいえる全国の原発全面停止という愚挙でした。現実問題として、
米国のスリーマイル原発事故であれ、ソ連(現ウクライナ)のチェルノブイリ原発事故であれ、
事故にあった以外の原発は一切停止させてはいません。
菅内閣が犯したもう一つの拙速にして、お粗末な愚策は、再生可能エネルギーを、
2020年までに20%にするとしたことでした。
操業の安定が難題なのが、変動幅が激しすぎる太陽光発電と風力発電で、
設計能力に対する平均的な発電量は前者が10分の1、後者が5分の1しかありません。
水力や地熱の方が比較的安定した発電方式ですが、民主党政権の甘い計画では、
そのあたりも含めた配慮も欠いた上に、生み出された電力の受け入れ・送電網整備や、
蓄電池などの対策も不完全だったようです。買い入れコストの設定も高額すぎたミスもあり、
今回も一部電力会社が受け入りを拒否したという結果もあったそうです。
安倍内閣は、目下これら問題点の早急なる修正を余儀なくされて居る状況下で、
“水素社会プラン”もオリンピックまでにどうこうと言った拙速に走ってしまうと、
後顧の憂いを残す恐れが大きくなってしまいます。ここは、政管民が、
バランス感覚を失わずに、中長期戦略を講じて頂くよう乞い願う次第です。