1. サポニン(saponin)とは
サポニンは、植物界に広く分布し、一次代謝産物(アミノ酸、脂肪酸、ブドウ糖)が
複合して出来る二次代謝産物。
分類上はテルペン類のトリテルペン(triterpenes)に分類されています。
植物のトリテルペンはアルカロイドと共に、生薬として漢方、和漢方、アーユルベーダ、
西洋ハーブなどの最も重要な薬効成分の一つ。
サポニンの分子構造はトリテルペンやステロイドにオリゴ糖(二個以上の糖が結合したもの)が
結合した配糖体。
「性ホルモン、ステロイドを合成するトリテルぺンは
植物成分のテルペノイド(terpenoid)」
2. サポニンの界面活性作用(サーファクタント:surfactant)
サポニンは同一分子内に親水基(水に馴染む糖の部分)と疎水基(水を嫌うアグリコンの部分)を持ちます。
アグリコンは糖が切り離された状態です。
この界面活性作用が、サポニンを摂食した人体の細胞膜に有用物質を浸透させるといわれています。
サーファクタント(surfactant)は化学用語ですが、乳化剤作用と同じですから
エマルシファイアー(emulsifier)とも呼ばれます。
3. サポニン(saponin)の効用
細胞膜の脂質に界面活性作用をもたせるサポニンの効用は多々あります。
細胞のリポソーム脂質二重膜(脂質二重層膜閉鎖小胞)(liposome)の
透過性を増大させる活性作用が最大のものですが、
肥満化の抑制(リパーゼの働きを阻害し脂肪分解を抑制)、
動脈硬化の予防(過酸化脂質生成の抑制)(植物では大豆や緑豆の胚芽部分など)
抗炎症作用、抗アレルギー作用、ストレス潰瘍予防作用(植物ではサイコなど)。
精神、神経系に対する作用(オタネニンジンなど)などが知られています。
4. トリテルペノイドサポニンとステロイドサポニン
サポニンに結合した糖を除いた部分はサポゲニン(sapogenin)と呼ばれますが、
サポゲニンはトリテルペノイド・サポニンとステロイド・サポニンに大別されています。
5. トリテルペノイド・サポニンのオレアナン系(oreanan)とダンマラン系(dammarane)
植物性のサポニンはスクワレンからサポニンが合成される経路で、
オレアナン系(oreanan)(oleanolic acid)とダンマラン系(dammarane)の
二つの分子構造が異なるサポニンが生成されています。
トリテルペノイド・サポニン含有植物生薬の大半はダンマラン系ではなく、
オレアナン系サポニンを持つ植物由来です。
6. 代表的なオレアナン系(oreanan)の植物性生薬
a. オンジ (遠志)
別名: 棘苑(イトヒメハギの根)
ヒメハギ科.:*上品
b. カンゾウ (甘草:カンゾウの根:Glycyrrhiza uralensis Radix)
マメ科(Leguminosae):*上品
c. ゴシツ (牛膝:ヒナタイノコズチの根)
ヒユ科.上品
d. サイコ (柴胡:ミシマサイコの根)
セリ科上品
e. キキョウ (桔梗:キキョウの根)
キキョウ科:下品
f. セネガ (senega)(ヒロハセネガの根:Polygala senega var. latifolia Radix)
ヒメハギ科
北米原産。アメリカインディアンのセネガ族がガラガラ蛇毒の解毒に使用したという。
根にセネゲイン(senegein)が含まれており,セネガシロップなど去痰薬がある
g. モクツウ (木通)
アケビ(Akebia quinata Decaisne)、ミツバアケビ(Akebia trifoliata Koidzumi)の茎。
アケビ科(Lardizabalaceae)
ウマノスズクサ科(Aristolochiaceae)の
キダチウマノスズクサ(Aristolochia manshuriensis Kom)にも
木通がありますが、含有するアリストロキア酸(aristolochia acid)が
腎障害の原因となることが知られており、一般には販売が禁止されています。
アリストロキア酸はアリストロキア属の植物に含有される成分で、
日本でもアケビの木通として販売された漢方薬で腎臓障害が複数報告されました。
h. エゴノキ果皮(Styrax japonica)
轆轤木(ロクロギ)、チシャノキ、山萵苣(ヤマジサ)
i. モダマ(Entada phaseoloides Fabaceae)
モダマのサポニン界面活性作用を実際に石鹸の代用として愛用している
国(フィリッピンなど)もあります。
フィリッピン名はGugo
7. 代表的なダンマラン系(dammarane)植物性生薬
a. ニンジン (人参:オタネニンジンの根:Panax ginseng C.A. Meyer)
ウコギ科(Araliaceae)
別名:朝鮮人参、高麗人参
薬用人参には、オタネ人参、田七人参、アメリカ人参、シベリア人参など、
いくつもの種類がありますが、オタネニンジンからは自然界には
稀少な分子構造のダンマラン系 (dammarane)のサポニンが
30種類近く分析されています。
人参サポニンの主成分ジンセノシド(ginsenoside)といわれるサポニンは
種類も多く、ダンマラン系、オレアナン系の双方の分子構造があります。
b.タイソウ (大棗:ナツメ、サネブトナツメ類の実:
Zizyphus jujuba Mill、Zizyphi Fructus)
クロウメモドキ科(Rhamnaceae)
8. ステロイド・サポニンを含有する植物性生薬
ステロイド・サポニンはユリ科などに多く見られます。
トリテルペノイド・サポニンほど研究が進んでいませんが、
トリテルペノイド・サポニンより強い作用があるといわれ、
癌を中心に研究者がいるといわれます。
機能については研究途上ですから薬剤師の指示無しの摂食は危険です。
a. キンセンカ(キンセンカの花)
キク科キンセンカ属(Calendula officinalis Linn)
別名マリーゴールド(common marigold、pot marigold)
江戸時代より鑑賞用として親しまれている品種には同属の
ホンキンセンカ(Calendula.arvensis)別名 唐金盞(とうきんせん)があります。
キンセンカ類は20種類以上あるといわれ、現在一般的な観賞用の
タゲテス(Tagetes erecta)L.と呼ばれる品種はセンジュギク(千寿菊)、
マンジュギク(万寿菊)、フレンチマリーゴールド、アフリカンマリーゴールドなどと
混乱した名前で呼ばれていますが、生薬とは関係ありません。
b. チモ (知母:ハナスゲの根茎)
ユリ科(Anemarrhena asphodeloides Bunge Liliaceae)
c. ユッカ(ユッカの根茎)
ユリ科(Yucca schidigera Liliaceae)
別名:Mojave Yucca、 Spanish Dagger (Yucca aloifolia)
d. トチノキ(トチノキの葉や実:Aesculus hippocastanum )
トチノキ科 トチノキ属
別名ホース・チェスナット(Horse chestnut)、マロニエ(Marronnier)
外傷や静脈瘤のはれなどの症状を抑える「ベノスタジン」は
セイヨウトチノキ種子エキスの注射液、軟膏です。
ベノスタジンにはショック症状の副作用疑い報告がありますから
トチノキの摂食は注意が必要です。
e. バクモンドウ (麦門冬:ジャノヒゲ、リュウノタマ)
ユリ科(Ophiopogon japonicus Ker-Gawl Liliaceae.)
ノシラン(Ophiopogon aburan Liliaceae.)などの根茎。
ジャノヒゲ属(Convallariaceae)
メキシコ原産のリュウゼツラン科植物(Nolina recurvata (Lem.) Hemsl.)の
ステロイドサポニンは一部の学者間で薬効が注目を浴びています。
9. 大豆のサポニンとプファフォシド (Pfaffosides)
大豆の胚芽にはサポニンが多く含まれています。
大豆サポニンという呼び名は通称ですが、生大豆には数種類のオレアナン系(oreanan)
サポニンが総量の0.3%位含まれています。
また大豆や緑豆に含まれるサポニンにはプファフォシド(Pfaffosides)という
有用な植物性化学物質が含まれます。
プファフォシド(Pfaffosides)とプファフィック酸(Pfaffic acid)の
派生物質については、80年代では抗ガン物質として特許が申請されているものがあります。
Antitumor pfaffosides from Brazilian carrots. Japanese Patent Number (84 184198)
Oct. 19 1984 by Rohto Pharmaceutical Co. Ltd.
(ただしこの研究で使用されたのは、プファ属のスマであり、
大豆由来のプファフォシドではありません)
スマ(Suma:paniculata pfaffia Amaranthaceae)
別名:Brazilian ginseng pfaffia、 Brazilian carrots(para toda corango-acu)
南米に自生する、低木性の蔓植物。Pfaffia属には50種類以上があります。
10. 生薬の上品と下品とは
上品、下品は漢方の神農本草経に記載された分類用語。
上品は安全度が高い生薬。
下品は素人には危険な生薬。
なおRadixは根茎のことです。
中国などでは類似植物が本来の生薬名で販売されることが少なくありません。
類似が多い品種、なじみの薄い品種については学名で判断する必要があります。
漢方薬は名が同じでも類似品種や外見が似ている全く別の植物が売られることが
少なくありません。
伝統的食材以外の漢方薬は市場などでなく信頼できる漢方薬局で購入すべきです。
また、アジアの市場では現地の人でも判別できない偽物が少なくありませんから
生薬類は一般の方にはお薦めできません。