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感染症の海外ニュースと解説

スペイン風邪ウィルスで実験された新型インフルエンザA(H5N1)対策

1.米国CDCの鳥インフルエンザ・ウィルス情報

インフルエンザのシーズンとなり、いつもながら新型インフルエンザ発生が
現実味を増しますが、米国厚生省(HSS)の疾病管理予防センター(CDC)から、
2007年2月1日に二つのニュースが発表されました。                             

一つはA(H5N1)など新型インフルエンザの大流行(パンデミック)も
ウィルスの持つ酵素をわずかな遺伝子操作するだけで、
大きな効果が得られたという研究。
この研究はタブーとされてきたスペイン風邪ウィルス(H1N1)を
使用した実験を疾病管理予防センター(CDC)が許可したことが特徴的。

2007年2月5日のサイエンス誌に掲載された研究は、動物実験の段階でしたが、
即効性と経済的な効果のある防疫法となる可能性を持っていると評価されました。  
                                   
 もう一つはインドネシア、イギリス、日本などで蔓延した
鳥インフルエンザ・ウィルスが渡り鳥を介して米国に侵入する恐れがあること。
人感染するウィルスに変異している可能性があるために、
全国的な警戒態勢で防疫を強化する必要があるという呼びかけでした。
 

2.サイエンス誌に発表されたのはスペイン風邪ウィルス(H1N1)を使用した研究
(Small Changes in 1918 Pandemic Virus Knocks Out Transmission)

研究は疾病管理予防センター(CDC)の微生物学者テレンス・タンペイ博士(Dr. Terrence Tumpey)を
中心に、シナイ医科大学(Sinai School of Medicine)、
サウスウェスト家禽研究所(Southeast Poultry Research Laboratory)の共同作業で行なわれました。
この研究にはCDCが保管する1918年のパンデミック・ウィルスが使はれましたが、
この新型ウィルスは世界で2,000万人以上、米国だけでも50万人から65万人が
死亡したと言われるスペイン風邪のウィルスA(H1N1)。
インフルエンザウィルスの突起(スパイク)に存在し、人などの細胞に
ウィルスが侵入するのを助ける酵素(たんぱく質)は
ヘマグルチニン(Hemagglutinin)とノイラミニダーゼ(Neuraminidase)に
大きく分けられます。
H1N1、H5N1などインフルエンザ・ウィルスの型を表すときに使用される「H」は
ヘマグルチニンを意味しますが、今回の研究は、
スペイン風邪ウィルス(H1N1)のたんぱく質遺伝子の一部を制御できれば感染が拡がらない
というものです。
インフルエンザの特効薬となっているタミフル、リレンザはウィルスが持つ
もう一つの「N」と呼ばれるノイラミニダーゼ酵素の機能を阻止するものです。
この恐ろしいウィルスを使用して動物実験をすることには、
他の研究者達から危険性の議論が出て相当な騒ぎともなっていますが、
かなり重要な結果が得られているのも事実でしょう。
 

3.新型インフルエンザ・ウィルスの新しい制御法とは

今回の研究がユニークなのはタミフルなどと異なり、ヘマグルチニンの、
ある種の蛋白質遺伝子をコントロールすることで、
ウィルスの増殖を抑制することです(酵素はたんぱく質で構成されます)。
研究者はウィルスA(H1N1)が他に感染していくときに、赤血球凝集素である
ヘマグルチニンが重要な役割をはたすことを指摘しています。
ヘマグルチニンはノイラミニダーゼに比較して識別しやすい酵素ですが、
抗体を作る変化が早く、めまぐるしく新しい型に変化します。
この変化の多様性はドリフト(drift)または連続抗原変異(Antigenic drift)と
よばれますが、インフルエンザ・ウィルスが免疫性に乏しく、
ワクチンが効きにくい原因ともなります。                                                   
実験はウィルスに感染している小動物のフェレットと未感染フェレットに
濃厚な接触をさせて行なわれましたが、ヘマグルチニンの
ある種のたんぱく質遺伝子を制御すると、侵入ウィルスは消滅しませんが、
他の細胞に転移していかないということです。
ウィルスの毒性が失われないものの、感染能力がなくなるということは
防疫に非常に重要なことです。

4.フェレット(ferret:Mustela putorius furo)

イタチ属の小動物で、先祖は同属の
ポールキャット(European Polecat;Mustela putorius)ともいわれます。
フェレットという名称はシロイタチとも訳され、イタチ属近似種の総称ですが、
学名のMustela putoriusはヨーロッパ・ケナガイタチと訳されています。
インフルエンザ・ウィルスに冒されると人間に似た症状が出ることから、
実験に最適な動物といわれます。
エジプト近辺が生息地のルーツといわれますが、紀元前1000年以上前から
飼育されていたために、近似種との混合種が多数存在するようです。
古くからペット、狩猟対象、実験動物として利用されてきました。

 

5.青海湖(Qinghai:中国)から世界に新型インフルエンザ・ウィルスが蔓延する?

2007年に宮崎県の新富、清武、日向の町で集団発生した鳥インフルエンザA(H5N1)の株(strain)は
中国の青海湖を中継点として広がっている株と近似しているといわれます。
同一かどうかの判定はまだ報告されていませんが、青海湖では中近東、欧州、東南アジア、
韓国、中国沿海、北米など各方面と往来する渡り鳥が交流していますから、
宮崎、岡山の鳥インフルエンザ・ウィルスが変異を疑われているインドネシアと同株であっても
不思議はありません。青海湖(Qinghai Lake)はユーラシア大陸に点在する
巨大な塩湖の一つで、チベットに近い3000メートルの高地に立地する
世界第二位の面積を持つ湖。
渡り鳥のサンクチュアリーといわれ、世界中の渡り鳥の品種が集まっています。

 

6.死亡者が急増する鳥インフルエンザA(H5N1)型

世界では高病原性(強毒型)鳥インフルエンザHPAI(High Pathogenic Avian Influenza)で死亡する人が
163人を数え、2006年初からは急増しています。
死亡者は2003年に4人,2004年32人,2005年42人、2006年80人ですが、2007年はすでに7件が発生。
2003年以前を含めて、これまでで271件の発生で165人の死者ですから、致死率の非常に高い感染症。
特にジャワ島を中心に拡がっているインドネシアでは感染死亡者(累計63人)が
急増しており、エジプトでも死者が出続けています。

 

7.恐ろしい豚インフルエンザ(スワイン・インフルエンザ:Swine flu)の発生

2007年の報告ではインドネシアでは豚からも、H5N1ウィルスが発見されています。
これはすでに人人感染の下地ができている可能性をも意味します。豚が感染したケースは
ベトナム、タイでも発見されていますが、アジアの鳥インフルエンザ・ウィルスH5N1型が
豚の体内でリアソータントされて毒性を増していることが想像できます。
リアソータントは哺乳類の体内で行なわれますから、人感染が確認され、165人もの死亡者がでている
人類の体内でもリアソータントされた可能性が否定できません。
これまでの例ではパンデミックになる前に豚インフルエンザが確認されているケースがほとんどです。

 

8.リアソータント・ウィルス(reassortant viruses)

哺乳類の体内で二つのウィルスが混血(混合、reassort)して
ハイブリッドウィルスが作られることを意味します。
鳥インフルエンザウィルスの原型は人間に感染しないとされていましたから、
鳥感染ウィルスと人間感染ウィルス双方のウィルスに感染する豚がリアソータントの
元凶と考えられています。
スペイン風邪H1N1(1918年)のパンデミック時には
同型の豚インフルエンザが発見されていますが、
2001年から2002年にかけて、 ヨーロッパを中心に世界的に流行した
インフルエンザからは、ヒトのA(H1N1)型とA(H3N2)型のリアソータントと
思われるA(H1N2)型ウィルスが分離検出されました。
豚と人間のどちらが複合させたかの結論は出ていませんが、
人間の体内で異なる型のウィルスがリアソータントしたケースが
考えられています。
問題となっているのは鳥インフルエンザA(H5N1)が
サブタイプの変異を起こさない株の変異(ドリフト)でありながら
強毒を持った可能性があることです。

 

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