どこの国の生鮮市場にもエビ専門の売り子がいます。(ニャチャンの生鮮市場)
東南アジアのエビ産業は輸出用ばかりではありません。
種類によっては高価な食材ですが、バナメイは庶民に非常に身近な存在。
1.バナメイとシバエビの詐称騒ぎは消費者にも責任が
(写真上下)バナメイ(Penaeus vannamei )(ホーチミン市).下右は加熱後
2013年に食産業を揺るがした食材の偽称、詐称。
若い従事者の正義感による内部告発のようですが
その原点をたどると根深い倫理、道徳の欠如。それから生まれた悪しき慣習が
あぶりだされています。
ホテルや中華レストランなどのバナメイをシバエビと詐称する行為が牛肉などと並んで
ターゲットとなったのはご承知の通り。
詐称に違いないとはいえバナメイとシバエビは甲乙つけがたい美味しさ。
バナメイはプリプリ。シバエビは薫り高くソフトな食感。
どちらが良いかは好き好き。
詐称が表面化した2013年は、かねてよりの微生物汚染で生産量が激減した年。
バナメイの価格は2倍以上に跳ね上がっていました。
シバエビとの価格差が接近したため、牛肉、ウナギ、シイタケ、タケノコ
ニンニクのような、5から10倍も価格差がある食材と較べれば消費者の
被害意識は大きくなかったでしょう。
バナメイ(Penaeus vannamei )は花野菜とマッチします.(ホーチミン市)
ただし、詐称、偽称がここまで根深いのは日本人消費者の勉強不足もあるでしょう.
バナメイとシバエビの外観は一目でわかります。
多様な料理に育まれた世界のグルメのはずの日本人。
意外にこだわりの無い人が多いようです.
また関東には料金や請求書にこだわることを恥とする文化があります。
このあたりを倫理観のない業者に付け込まれたのでしょう。
写真を較べて観てください。
一般に流通しているシバエビはバナメイより小型。
ブラックタイガー、バナメイ、シバエビはどれもが日本のクルマエビと同様に
クルマエビ科です。当然ながら似ている部分はたくさんありますが差異は明瞭。
クルマエビの名前の由来は加熱後に体が車輪のように丸くなるからです。
2.シバエビ(Metapenaeus joyneri)には独特の香りがあります。
(写真上)
クルマエビ科ヨシエビ属(Metapenaeus)のシバエビ(Metapenaeus joyneri)
長い赤ひげと全身の濃いブルー(藍色)斑点が特徴.
同属のヨシエビと外見が似ています.他と較べれば小型で120mm以下が多い.
(写真上)加熱後のシバエビ(Metapenaeus joyneri)
3.世界一の生産量はバナメイ(Penaeus vannamei )
(写真上)バナメイ(Penaeus vannamei )(ジョホールバル:ML)
上下のバナメイは撮影光源が異なりますので色が大きく異なって見えますが
白エビ(バナナ・エビ)といわれるPenaeus merguiensis 、 Penaeus indicusとは
体色が異なります。
バナメイは一番安いエビといえますが、鮮度によって大きな価格差があります。
マレーシアのケースでは1キロ200円くらいから、鮮度の良いものは
1キロ600円くらいになります。タイでは同じくらいですが、インドシナではさらに
安く売られています。
日本ではインドネシア産の無頭剥き海老で末端価格1キロ1,600円くらいでしょう。
バナメイ(Penaeus vannamei またはLitopenaeus vannamei)は1990年代ごろから
中国、東南アジアで養殖が盛んになりました。
それまでのトロールによる天然のエビ漁獲が激減してきたからです。
養殖バナメイは2000年代になると「美味しい、安い」が評判となり生産高は
チャンピオンのブラックタイガーに迫る急増。
2004年には養殖池汚染で減産が続いたたブラックタイガーを超える110万トンを
生産し世界一となりました。
日本で知られるようになったのはその後ですからまだ7-8年。
主としてタイ、インドネシア、中国から輸入していました。
そのころの日本のエビ生産量はクルマエビ、ホッカイアカエビ、シバエビなどを中心に
マイナーなホッカイボタンエビ、アマエビ、サクラエビなどを入れても総量5万トン足らず。
現在はその半分もない輸入大国。
日本は当時でも輸入エビを主に年間20から25万トンは消費していたエビが大好きな
消費大国。
貧困が話題となるカンボジアも首都の生鮮市場は食材が豊富。(プノンペン)
やはり旧宗主国フランスの伝統を受け継いでいるのでしょう。
都心の住民は海産物が大好物。バナメイ、タイガー、バナナ(シロエビ)など
メジャーな海老類はほとんどの種類が売られています。
4.アジア、EU、米国、中米など世界を席巻するバナメイ
(写真上)バナメイのてんぷら風お米の衣.(ニャチャン:ベトナム)
(写真上下)ニュージーランドではキロ約1,800円.(オークランド:NZ)
異常に高価な大型のエビに較べればバナメイだけは安い。
下の写真はお欧米人が好むトマト味のマリネー.キロ約3,200円.
(写真上下)フランスで購入したバナメイ.キロ1,000円位.
フランスではタイ産、エクアドル産がほとんど.
5.エビは世界で最も愛される海産食材の一つ。
国際連合食糧 農業機関(Food and Agricultures Organization:FAO)の統計によれば
世界の漁獲と養殖水産物の総生産量は2006年で1億4千万トンくらい。
中国がダントツの5,000万トン弱。
続くペルーが1,000万トン前後。日本、インド、インドネシア、アメリカ、チリなどが400から600万トン
前後で続きます。
(注:内需が多い中国の生産量公表数字は不明確といわれますから
割引する必要があるでしょう)
養殖水産物の生産量は2006年に5,200万トン弱でしたが、2008年は約6,800万トン
に急増。総生産量の半分を占めるようになりました。
FAOの推計では金額換算で88億ドル(約9,000億円:2009年)
それでも今後の需要を予測するとまだ4-5千万トンは足りないといわれ、
昨今では漁獲の限界を養殖が補い、すでに6割を越えていると推計されています。
食用になるエビは200種を超えるといわれますが、地産地消を除くと市場に出回る
メジャーなエビの品種はそれほど多くはありません。
貿易取引の対象となるエビの品種はさらに数えるほど。高価な伊勢海老類を除くと
国際間で取引されるのはほとんどがクルマエビ科(Penaeidae)。
世界のエビ総生産量は平均して年間670万トンくらい。養殖はその半分くらいと推定。
国際連合食糧 農業機関(FAO)の統計ではエビは量では国際間取引水産物の
ベストファイブには入りませんが2008年で水産物全体の5%くらいを占めます。
ただし金額では約1060億ドルの第2位。13%を超えるといわれますから超高額な食材。
インド、中国を含むアジア諸国が世界の生産地となり90%前後を占めているようです。
中型エビ(一般的にプローンと呼ばれる)はどこの国でも中産階級以上の食材といえます。
タイも同様でエビは輸出用が圧倒的に多く、キロ3百円を超える食材ですから
大衆的とはいえません。
(写真上右)レインボー・プローン(rainbow prawn:Parapenaeopsis sculptilis)(ジョホールバル:ML)
このエビはジョホールでは安い.17リンギ/kg(約510円)
(写真上左) 天然ブラックタイガー(Penaeus monodon)(パタヤ:タイランド)
天然は結構高価。350バーツ/kg(約1,050円)
永らく養殖エビといえばブラックタイガーがチャンピオン.
1980年頃より台湾で大規模な養殖が始まったといわれます。
バナメイが急増する2004年頃までは生産量のチャンピオンを続けていました.
和名はウシエビ.タイではKung Kula Damと呼ばれています。
タイガーは養殖ばかりでなく海産の天然エビも大量に流通しています。
色や模様は生息域や個体差で様々。通常は20センチくらい.
天然では30センチ近い大型が獲れることもあります。
(写真上左)バナメイ(Penaeus vannamei )(ジョホールバル:ML)
バナメイは安いもので180円/kg。鮮度の良いもので300円/kg
(写真上右)アカアシ、クマエビと通称されるクルマエビ科(Penaeus semisulcatus).
希少なのか輸入なのかタイとしては超高価な800バーツ/kg(約2,400円)(パタヤ:タイ)
(写真上)オセアニアの高価なクルマエビ科.(Penaeus semisulcatus?)
(オークランド:NZ)
通称ジャイアントプローンまたはキング・プローン
ジャイアントプローンは1キロ約70NZドル.6,000円くらいですから超高価.
ここではミナミイセエビのボイルが約 8,000円.
他の物価から比べれば異常に高いのがオセアニア.
オセアニアは海産物全体が高価.
肉食が多く、水産食材を食する人が限られるので、高値は話題にはなりません。
(写真上下)日本産のクルマエビ(Penaeus japonicus)
台湾、韓国からの輸入も多い.活きエビが取引される世界でも数少ない種類.
下は加熱後.
アジアでは美味しくて価格の安いバナメイがエビ料理の中心となっていますが、
鮮度を重んじる高級レストランやホテルでは「活き」で取引できるオニテナガエビ(上の写真下段右)が
急速に増えています。
オニテナガエビは日本のクルマエビと並び「活き」が通常取引される数少ない品種です。
6.エビの鮮度を保ち食感を良くする薬品の安全性
エビ、カニなど甲殻類は高価でも「活き」で食べるべきという理由は
鮮度を保ち、アミノ酸の変化により黒変化するのを防ぐために
薬品(亜硫酸水素ナトリウム、亜塩素酸ナトリウムなど)が使用されるからです。
薬品はエビカニの筋肉内に残留し、あたかも新鮮であるかのようなプリプリ感を得ることも
出来ますので冷凍で流通するエビのほとんどが添加物として使用します。
亜硫酸水素ナトリウムは漂白剤、保存剤、還元剤、酸化防止剤などとして加工食品や
ワイン、ジュース、化粧品、洗剤などに広く使用されていますから、加工食品摂食割合の多い
生活習慣によっては総量が相当量になっている恐れがあります。
化粧品などの経皮による毒性は未知のようですが、経口で有害なのは議論の余地が
ありません。
亜硫酸水素ナトリウム類は皮膚、呼吸器に有害性を示す化学合成物として知られ
アレルギー、喘息のある方は特に避けるべき物質。
経口の食品添加物としては化学反応をして筋肉中に残留する二酸化硫黄( sulfur dioxide)の
有害性が高いと先進国では指摘されています。
それにもかかわらず水産加工産業が盛んな日本としては使用量を限定して
許可せざるを得ないのが実情のようです。
エビ、カニが特に問題となるのは保存料としてより、プリプリ感を出すためにエビの筋肉中
に規制量以上の二酸化硫黄( sulfur dioxide)を残留させる業者が多いからです。
養殖エビの場合は養殖池でフォルムアルデヒト(抗菌剤)を使用していると亜硫酸水素ナトリウム量が
倍増する危険があるという報告もあります。
薬品を使用するのは冷凍食品ばかりではありません。
甘海老の一種として流通する国産のホッカイアカエビは寿司だねとして人気があり、
多い年で4,600トン以上が水揚げされますが、黒変を防止し鮮度を保つために冷凍していないものも
亜硫酸水素ナトリウムや化学合成されたアスコルビン酸を使用しているようです。
アスコルビン酸は化学合成されたもので安全性に関して議論があります。
様々な物質で構成されて安全性を持つ天然のビタミンCとは異なり
肝臓障害のある方などに有害性を持つという論文も報告されています。
7.エビ養殖業者に恐れられるEMSとは
どこの国でもエビ養殖は微生物の被害が発生しやすいことが悩み。
それ故に発展途上国のエビ養殖は抗生物質やフォルムアルデヒト(抗菌剤)が
過剰に使用されることがあります。
エビが感染する微生物はたくさんありますが最近の話題は
ペストとして恐れられているEMS。
Early Mortality Syndrome(EMS)は致死率が非常に高い微生物起因の感染症。
2009年に中国で最初に発見.隣接のベトナムからタイ、マレーシアなどに波及。
エビの養殖現場を襲う微生物にはこの他にも
AHPND(Acute Hepatopancreatic Necrosis Disease:急性膵臓壊死病)
腸炎ビブリオの養殖エビ版や
MMV (Macrobrachium Muscle Virus)、
WSBV (White spot Syndrome BaculoVirus)などのウィルス、
バクテリア、カビなど10種類以上の微生物よる感染症があります。
(生鮮食材研究家:しらす・さぶろう)