1.強精強壮の食材ジリンガ(Archidendron pauciflorum)
東南アジアの生鮮市場に行くとジリンといわれる大きなマメが売られています。
50センチ以上はある莢から取り出された実ですが、温帯地方では見ることのない大きさ。
ジリンはマメ科(Fabaceae)の花樹。
ミモザ科(Mimosaceae)に分類する人もいます。
ジリンは香辛料や強精強壮の食材として特に男性に人気がある豆野菜。
インドネシア、マレーシア、タイ、ミャンマーでメジャーな野菜ですが
特に目立つのがマレーシア。
肉料理のルンダン (rendang) に使用されますが、もともとルンダンは
近隣国インドネシア西スマトラ州(州都パダン)の郷土料理。
肉類とココナッツミルク、香辛料などを煮込んだものですが広く各国で食されています。
タイ北部、南部でジリンガはニアン(luk nieng)と呼ばれ、カレー料理などに使用されています。
インドネシアではレンダン(ルンダン)のほか、ジリンはサテの香辛料としてもポピュラーです。
2.ジリンガ(Archidendron jiringa)の成分と正負の作用
強烈な臭いに慣れている民族には匂いの強いジリンも病みつきとなる
香辛食材であり、ニンニク同様に強壮強精食材なのでしょう。
ニンニク、玉ねぎ、ラッキョウなどなどアリシン含有食材はマイルドな強壮強精食材ですが
味覚面で世界中に愛されています。
それと比較すればジェンコルは一般的に男の食材といわれ、精力増強面が
強い食材と思います。
この豆は強精効果を期待する外国人にも人気がありますが、
ジェンコリスム(djenkolism )と呼ばれている消化器系疾患(後述)が出ることがありますので
生産地住民は別として外国人にまで安全性が確保できている食材とはいえません。
ジリンや近似種は10メートルを超える樹木.
葉が枯れた後の豆鞘は4-50センチはあり葉が無いだけに壮観です.
ジリンマメは包皮付の未熟なもの、完熟したもの、芽を出したもの、厚い包皮を剥いだもの、
薄皮を剥いだもの、乾燥させたものなど様々な形態で売られています。
強壮効果のある食材は循環器の保健に重要ですが、強壮効果は強精作用に通じるため、
誤解されることが少なくありません。
強壮効果は強精効果に通じますが、強精効果は強壮効果に通じるとは限りません。
逆は真ではないわけです。
食材としての実績があるとはいえマメ科野菜の食べ過ぎは厳禁。
健康に良い成分が多いとはいえ、どのくらいの量が体に損傷を与え、
どのくらいで致死量になるというような疫学的な研究はいまだにありません。
強精効果というのは血液量の増加、血流の活発化、血管の拡大などオーソドックスな
強壮の働きを期待すべきものです。
覚醒剤、麻薬のように中枢神経を過度に刺激するもの、
生殖器に直接的に働きかけるものの常用は大変危険です。
3.混乱するジリンガ(ジェンコル)の呼び名
ジリンガは民族別、国別、地域別の呼称や俗称が非常に多い植物の一つですが
メジャーになるほど通称俗称が多いのは食材では当たり前。
ジリンガも学者間の分類や命名で混乱していますから、どれが正真正銘なのか
一般人や外国人には難解です。
学者、研究者の顕示欲や功名争いの部分が強く垣間見えますが、健康食材として
ジリンガを考慮する人には無縁。
マレーシア、インドネシア系の通称ジリンガ(jiringa)、ジェリン(jering)や
ジェンコール(djengkol)で市場では通じます。
ジリンガは分類学上も混乱しており学名だけでも驚くべき数です。
Archidendron pauciflorum
Archidendron jiringa
Albizia jiringa (Jack) Kurz
Feuilleea jiringa (Jack) O.Kuntze
Inga jiringa Jack ex DC
Inga kaeringa (Roxb.) Voigt
Mimosa jiringa Jack
Mimosa kaeringa Roxb.
Pithecellobium jiringa (Jack) Prain
Pithecellobium lobatum Benth.
Zygia jiringa (Jack) Kosterm.
熱帯地方には様々な形状の種(タネ)があります。
4.ジリンガ(Archidendron jiringa)の匂いの素
ジリンガ(Archidendron jiringa)の匂いの素は
ジェンコリック酸(Djenkolic acid :jengkolic acid)と命名されています。
たんぱく質を構成するアミノ酸とは異なる種類の2種類の
システイン酸にメチレン(methylene group)が
結合したものです。
この成分は微細なガラス状の針を生じ腎臓、膵臓に刺さります。
この状態になると腎毒性(nephrotoxicity)を持ち、貧血(azotemia)、腎臓結石、腎不全
の原因となります。
ジェンコリック酸は植物に吸収させると害虫を駆除できるそうですから、いかに
毒性が強いかの証(あかし)でしょう。
この特性を生かし殺虫剤( pesticide)として有機農法に使用されるケースもあるそうです。
ジリンガは伝統的に医薬品としても使用されています。
排尿効果(urination)を持つといわれ前立腺肥大の治療などに使用されますが
食習慣のない日本人にはお奨めできません。
昔は葉や幹皮等も鎮痛剤として使用していたようです。
また生産地ではいまでも貧血、高血圧、糖尿病などの治療に使用し、
ガンや悪性腫瘍、ヘルペスの一種であるエプスタイン・バール・ウイルス(Epstein-Barr virus :EBV).の
治療に使用する人もいるようです。
5.匂いの強い豆野菜
ジリンマメにはいくつかの近似種が市場に出回りますが最も近いのがマレーシア、インドネシアで
プッタイ、タイでサトウと呼ばれるネジレフサマメ(Parkia speciosa).。
マメ科、ミモザ科、ネムノキ科には硫黄系の匂いの強い野菜がいくつもあります。
(写真上)プッタイ.サトウ(Parkia speciosa). 和名.:ネジレサマメノキ. 英名.:Petai(ペタイ)
(写真上)サダオ(タイ語):インドセンダン(Azadirachta indica、Meliaceae)
(写真上)サダオは強い匂いで昆虫食などの消臭に利用もされる.
(写真上下)ネムノキ科のシャオム(Acacia pinnata:Acacia Insuavis, Lace )
ニンニク、玉ねぎ、ニラ、ラッキョウ、ネギなどはアリインが化学反応でアリシン(allicin)と
なった成分が強壮強精作用を持っている。
ジェンコールの作用機序はこれに近いものがあるが安全性はニンニク類が圧倒的に高い.
上のムラサキタマネギや下のロートレック・ニンニクのような
紫色を持つ種類はポリフェノールのアントシアニンが豊富なためより効果が高い。
強精強壮効果で知られるチョウセンアザミ(アーティチョーク)にも紫色の種類がある。
ニラの花(Allium Tuberosum)とロートレック・ニンニク
(生鮮食材研究家:しらす・さぶろう)