鳥インフルエンザ大流行には新型インフルエンザ発生の危険性
12月後半(2016年)になり中国では鳥インフルエンザが急拡大しており
河南省では2,000万羽の殺傷処理が報告されています。
これは中国で飼育されている鶏の12%にもあたるといわれます。
今年(2016年)はかなり規模が大きいようで、韓国でも大ブレイク。
日本にも感染が拡がりつつあり、九州各地、新潟県など複数の感染地で
数十万羽規模の殺処分が始まっています。
いつもながら中国が発生源、韓国に広まったといわれます。
中国、ベトナムの鶏はワクチンを施している業者が多いので要注意。
秘密に処分された病死鶏が流通する恐れもあり外食も危険。
お正月のアジア旅行では家禽市場や鶏、鴨、アヒルなど家禽の解体処理現場は避けるべきでしょう。
鳥インフルエンザ流行中はこのような解体現場に近づかないことが賢明
クアラトレンガヌー(マレーシア)
1. 高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)型の始まり
2004年に大流行した高病原性鳥インフルエンザ(HPAI)は香港、ヴェトナム、
タイ、カンボジア、インドネシア、中国などから、ラオス、パキスタンまで
飛び火し、韓国、日本などを含めて感染国は10カ国となりました。
その後に鳥インフルエンザがエジプト、イラン、トルコなどで広まったために鳥インフルエンザは中国青海湖が発生源であり、ユーラシア大陸経由で拡大する説が
現実味を帯びてきました。
2007年にもインドネシア中心に再度のブレイクが見られましたが、
これも遺伝子分析により中国青海湖が発生源といわれました。
2013年以降の遺伝子タイプははA(H5N1)に変わってA(H7N9)の亜種。
ヒト感染者は中国を主に800名以上(WHO)といわれ、死亡率は30%を超えているようですが
感染者の大部分は中国人.中国の統計ですから過少の恐れはあります。
*HPAI(High Pathogenic Avian Influenza)
2. 青海湖(Qinghai:中国)から世界に新型インフルエンザ・ウィルスが蔓延する?
青海湖(Qinghai Lake)はユーラシア大陸に点在する巨大な塩湖の一つ。
チベットに近い3000メートルの高地に立地する、世界第二位の面積を持つ湖。
渡り鳥のサンクチュアリーといわれ、世界中の渡り鳥の品種が集まっています。
当時、宮崎県の新富、清武、日向の町で集団発生した鳥インフルエンザ
A(H5N1)の株(strain)は中国の青海湖を中継点として広がっている株と
近似していたといわれます。
青海湖では中近東、欧州、東南アジア、韓国、中国沿海、北米など各方面と往来する
渡り鳥が交流しています。
冬季に中国、シベリアから飛来する水鳥系の渡り鳥が主たる感染源
3. 変異の早いヘマグルチニン(Hemagglutinin)の操作で新たな打開策
インフルエンザのシーズンになると、関係者が常に恐れているのは
パンデミックを起こす可能性のある新型インフルエンザの発生。
人などの細胞にウィルスが侵入するのを助ける酵素(たんぱく質)は
ヘマグルチニン(Hemagglutinin)とノイラミニダーゼ(Neuraminidase)に
大きく分けられ、球状のインフルエンザウィルスの突起(スパイク)に存在します。
インフルエンザ・ウィルスの遺伝子型を表す
H1N1、H5N1などの「H」はヘマグルチニンを意味します。
ヘマグルチニンは「N」を表すノイラミニダーゼに比較して識別しやすい酵素ですが、
抗体を作る変化が早く、めまぐるしく新しい型に変化します。
ヘマグルチニン酵素の制御は新型のウィルスが出現に対処できると考えられており
ノイラミニダーゼ酵素の機能を阻止するタミフル以後の
新世代抗インフルエンザ医薬品開発のターゲットの一つとなっています
4. 米国疾病管理予防センター(CDC)が発表したインフルエンザ制御の研究
ヘマグルチニン変化の多様性はドリフト(drift)または連続抗原変異(Antigenic drift)と
よばれますが、インフルエンザ・ウィルスが免疫性に乏しく、
ワクチンが効きにくい原因ともなります。
米国厚生省(HSS)の疾病管理予防センター(CDC)は10年前に
A(H5N1)など当時の新型インフルエンザの大流行(パンデミック)は
ウィルスの持つ酵素をわずかな遺伝子操作するだけで、
大きな抑制効果が得られたという研究を発表しています。
(Small Changes in 1918 Pandemic Virus Knocks Out Transmission)
研究者はウィルスA(H1N1)が他に感染していくときに、
赤血球凝集素であるヘマグルチニンが重要な役割をはたすことを指摘。
ヘマグルチニンの、ある種の蛋白質遺伝子をコントロールすることで、
ウィルスの増殖を抑制することを動物実験で証明しています
(酵素はたんぱく質で構成されます)。
2007年2月5日のサイエンス誌に掲載された研究は、
まだ動物実験の段階とはいえ、即効性と経済的な効果のある防疫法となる
可能性を持っていました。
実験はウィルスに感染している小動物のフェレットと未感染フェレットに
濃厚な接触をさせて行なわれましたが、ヘマグルチニンの
ある種のたんぱく質遺伝子を制御すると、侵入ウィルスは消滅しませんが、
他の細胞に転移しませんでした。
ウィルスの毒性が失われないものの、感染能力がなくなるということは
防疫に非常に重要なことです。
5. 新たな切り口を発表したのはCDCの微生物学者テレンス・タンペイ博士
サイエンス誌に発表された研究はCDCの微生物学者テレンス・タンペイ博士
(Dr. Terrence Tumpey)を中心に、シナイ医科大学(Sinai School of Medicine)、
サウスウェスト家禽研究所(Southeast Poultry Research Laboratory)の
共同作業で行なわれました。
この研究にはCDCが保管する1918年のパンデミック・ウィルスが使はれましたが、
この新型ウィルスは世界で2,000万人以上、米国だけでも50万人から65万人が死亡したと
いわれるスペイン風邪のウィルスA(H1N1)です。
この恐ろしいウィルスを使用して動物実験をすることには、
他の研究者達から危険性の議論が出て相当な騒ぎとなりましたが、
かなり重要な成果が得られているのも事実でしょう。
当時、インドネシア、イギリス、日本などで蔓延した鳥インフルエンザ・ウィルスが
渡り鳥を介して米国に侵入する恐れがあったことからの研究でしたが、その斬新な
切り口は今でも生きています。
鳥インフルエンザ大流行にはインフルエンザ新型発生の危険性が常にあります。
https://nogibota.com/archives/7956
6. 豚インフルエンザ(スワイン・インフルエンザ:Swine flu)の発生
2007年に流行した世界の高病原性(強毒型)鳥インフルエンザ死亡者は165人でした。
271件の発生で165人の死者ですから、致死率の非常に高い感染症。
特にジャワ島を中心に拡がっていたインドネシアで感染死亡者(累計63人)
が多いのが特徴的でした。
当時の報告ではインドネシアでは豚からも、H5N1ウィルスが発見されています。
これはすでに人人感染の下地ができている可能性をも意味します。
豚が感染したケースはベトナム、タイでも発見されていますが、
アジアの鳥インフルエンザ・ウィルスH5N1型が豚の体内でリアソータントされ
毒性を増していることが想像できます。
リアソータントは哺乳類の体内で行なわれますから、人感染が確認され、
165人の死亡者がでている人類の体内でもリアソータントされた
可能性が否定できません。
これまでの例ではパンデミックになる前に豚インフルエンザが
確認されているケースがほとんどです。
生きた鳥は市場売買が禁止されますから、解体処理現場が最も危険といわれます
7. リアソータント・ウィルス(reassortant viruses)
以下の記事は専用記事と重複しています。
哺乳類の体内で二つのウィルスが混血(混合、reassort)して
ハイブリッドウィルスが作られることを意味します。
鳥インフルエンザウィルスの原型は人間に感染しないとされていましたが、
鳥感染ウィルスと人間感染ウィルスの双方のウィルスに感染する豚がリアソータントの
元凶といわれています
スペイン風邪H1N1(1918年)のパンデミック時には同型の豚インフルエンザが
発見されていますが、2001年から2002年にかけて、
ヨーロッパを中心に世界的に流行したインフルエンザからは、
ヒトのA(H1N1)型とA(H3N2)型のリアソータントと思われる
A(H1N2)型ウィルスが分離検出されました。
豚と人間のどちらが複合させたかの結論は出ていませんが、
人間の体内で異なる型のウィルスがリアソータントしたケースが考えられています。
今回問題となっているのは鳥インフルエンザA(H5N1)がサブタイプの変異を起こさない
株の変異(ドリフト)でありながら強毒を持った可能性があることです。
8. フェレット(ferret:Mustela putorius furo)
イタチ属の小動物で、先祖は同属の
ポールキャット(European Polecat:Mustela putorius)ともいわれます。
フェレットという名称はシロイタチとも訳され、イタチ属近似種の総称ですが、
学名のMustela putoriusはヨーロッパ・ケナガイタチと訳されています。
インフルエンザ・ウィルスに冒されると人間に似た症状が出ることから、
実験に最適な動物といわれます。
エジプト近辺が生息地のルーツといわれますが、
紀元前1000年以上前から飼育されていたために、近似種との混合種が
多数存在するようです。古くからペット、狩猟対象、実験動物として利用されてきました。
初版:2007年2月
改訂版:2016年12月