1. 新世代の©オールインワン・メッド(AOM)は少数企業に寡占される?
欧米のビッグファーマや内外のトップクラス中堅製薬企業はCOVID‐19ワクチン関連、糖尿病や肥満の急増、円安で、現在は余裕ある財務環境ですが、次に続く大型新薬開発となると苦戦続きが予想されます。
時流に乗った糖尿病関連医薬品の成功で現在は絶好調のイーライリリーなど欧米の中堅製薬企業は品不足、品薄で嬉しい悲鳴をあげていますが、GLP-1受容体作動薬が主であり、SGLT2阻害薬などの新世代治療薬ではありません。
長期間の闘病となる糖尿病の治療薬は人体に悪影響をあたえることない、自然の摂理に逆らわない、健康的な食生活に準じた機能を持つ医薬品が理想。
世界大戦後の20世紀中ごろより著しい発展をした、有機化学工業の技術により、自然界に無い物質を生産することが可能になり、抗がん剤を筆頭に相当部分の医薬品に応用され、成果を上げていますが、想像が出来ない副作用に悩まされるようにもなりました。
近年の慢性疾患治療医薬品開発の、有機化学工業離れをテーマに「良き時代」への回帰を目指す動きは歓迎すべきで、©オールインワン・メッド(AOM)のコンセプトも数えきれないほど溢れて(あふれて)いる医薬品種を減少させたい社会的欲求がベースにあります。*(all in one medicine :AOM)
次回に解説しますが、医療先進国のドイツで発展した頃の医薬品は60%以上が自然界の産物をヒントに生産されていました。
新時代の慢性疾患糖尿病治療に各メーカーが目指す医薬品原料は、健康的な食生活に不足している素材(の化学合成品)と言い換えることが出来ます。
食生活に最も重要な成分の一つであるにかかわらず、ほとんどの人々に不足しているのはポリフェノール類、テルペノイド類ですが、人体の健康に寄与する有用な作用機序は非常に広範囲です。
がん(癌)と糖尿病克服をテーマに米国東部のMIT、ハーバード大学がコラボして探求した医療薬の原料は当初から自然界の産物の化学合成でした。
約4,000種の植物から選ばれたのが赤ブドウ・ポリフェノールのレスベラトロールでしたが、すでに研究者の間ではレスベが©オールインワン・サプリメントと言われるほどの多様な効能を持つことが知られていました。
現在オールインワン・サプリメントのレスベ研究に準じて糖尿病の医薬品を開発したのは、メルク社とセロノ社(Merck Serono)の合弁会社が開発したツイミーグ(イメグリミン)だけですが、天然素材のサプリメントとは異なり、化学合成された素材ですから、安全性に重大な課題が残っており、現段階では多用途性を意味するオールインワン・メッド:*(all in one medicine :AOM)ではありません。
あくまでも重症者用医薬品です。
将来的に難題の副作用問題が解決できれば、糖尿病との闘いに、サプリメント同様なミトコンドリア活性化の手法で、オールインワン・メッド(AOM)を完成させる大革命となるでしょう。
2. オールインワン・メッド(AOM)創薬の一番乗りはSGLT2阻害薬のフォシーガ
多用途のオールインワン・メッド草創期時代に先行している候補は、SGLT2阻害薬*フォシーガとミトコンドリアを活性化させる*ツイミーグです。
現在はフォシーガが一歩リードして、年間売り上げ800憶円を超えるスターの地位を確固たるものにしています。
SGLT2阻害薬は阻害の手法が異なる医薬品がいくつが開発されていますが、信頼すべきメタアナリシスの結果で、いまのところ推薦できるのはフォシーガです。
関連合併症などを含めた多用途機能での先陣争いが、これからも続くでしょう。
ただし、この医薬品はあくまでも重症患者専用であり、予防や初期段階の罹病者が使用するものではありません。
糖尿病予備軍、隠れ糖尿病と言われる約1,000万人の日本人は食生活改善、運動で進行を止めるべきで、医薬品の使用は避けるべきでしょう。
*フォシーガ:Forxiga:ダパグリフロジン:dapagliflozin propylene glycolate hydrate
(アストラゼネカ/小野薬品工業)
*ツイミーグ:TWYMEEG:イメグリミン:imeglimin hydrochlorid(Merck Serono)
作用機序別の市場シェアはこの5年間で急速に変化しています。
2017年時点で全体の約5割を占めていたDPP-4阻害薬は22年に30%台半ばまで低下し、SGLT2阻害薬と同水準になりました。SGLT2阻害薬の成長は著しく、2023年には逆転が確実です。
SGLT2阻害薬フォシーガの©オールインワン・メッド(AOM)候補と言える多用途機能はすでに糖尿病、病的肥満、心臓血管病、腎臓疾患が認められています。
加えて、脳神経変性疾患(認知症、パーキンソン病を含む)、一部のがん、老化細胞除去に効果を認める有力研究がいくつも発表されており、公式にフォシーガの用途として認められる可能性も遠い話ではありません。
3. 証券市場の混乱が促進する医薬品業界の改革
欧米、アジア先進各国の医療行政は大改革が必要と言われ続けられていましたが
COVID‐19パンデミックで得た巨大な、予想以上の利益創出で頓挫していた感がありました。
ところが、2024年8月4-5日の日米株式市場の前例のない乱高下は、世界の株式市場にも大きな影響を与え「我が世の春」を満喫していた医薬品製造業業界に冷水を浴びせたことでしょう。
両国の政権党に大きな影響力を持つビッグファーマばかりでなく、世界の中小規模製薬企業、インド、中国のジェネリック薬製造企業までに波及するショックを与えています。
本質的には低迷している日米の医薬品製造業ですから、大改革を加速せざるを得ない環境になったといえます。
本来ならば医薬品製造業界が望まない©オールインワン・メッドの早期出現が現実味を帯びてきました。
4. 国家財政破綻状態の日本が急ぐべきは医療制度改革
新薬の安全性、有用性の確認方法(法令)は、治験も含めて世界的に見直す必要があるのですが、既存医薬品の利権が優先されている国が多いために、新規承認薬は対象を狭い範囲に限定されるのが常で、日本も例外ではありません。
法令に縛られて、開発医薬品の用途ターゲットを絞らざるを得ない日本の現状はすでに時代遅れであり、熾烈な世界的新薬開発競争の現状に対応できません。
国家財政困窮の日本が現制度を維持しなければならない根拠はなにもありません。
財政支出の3割を超える医療制度の大幅改革が必須なのは一目瞭然。
まずは制度改革の糸口ともなる©オールインワン・メッド*(all in one medicine :AOM)の創薬に期待すべきでしょう。
医療費における薬剤費比率は平均20%前後と言われますが、医療費全体が増大しており新薬も言値買いがほとんど。薬剤費支出の絶対額は増えています。
一人勝ちを続ける米国経済でさえ医療関連の政府支出増に危機感を持っています。米国は増加する高齢者が中心の公的医療保障メディケアが2009年以降赤字続き。
昨年度のメディケアの総給付費は約5000億ドル(約55兆円)を超えているそうですが超富裕財政国にも関わらず、国は総力を挙げて制度改革に取り組んでいます。
慢性腎臓病撲滅や腎臓透析患者増の抑止政策を実現した米国を見習うべきでしょう。
5. オールインワン・メッド(AOM)時代のスターが新世代糖尿病治療薬となる理由
糖尿病の世界市場は推定5億3,700万人(2021年IDF Diabetes Atlas)。
底辺に拡がる合併症を含めれば、日本も世界も、糖尿病医療関連の総計需要は膨大です。
日本人の糖尿病は予備軍を入れれば2,000万人以上と推定されていますから、実に、成人の5人に1人に糖尿病を発症する可能性が示唆されています。
先進主要国では高齢化が進んでおり、日本もすでに75歳以上人口が2,005万人(2023年9月現在)。
糖尿病、心筋梗塞など心臓疾患(CVD)や、アルツハイマー病(AD)、パーキンソン病(PD)、加齢黄斑変性疾患(AMD)、認知症などの脳視神経変性症は加齢により重症者が急増します。
現在の日本の糖尿病関連医療費は約1兆2,239億円/年ですが、死亡数が1万3,969人/年ですから、健康寿命とは言えずとも、糖尿病は治療法次第で長寿が期待できる疾病です。
©オールインワン・メッド*(all in one medicine :AOM)時代になり、安いコストで超重症化が防げれば、医療費の大きな部分を占める腎臓透析も減り、財政支出改善ばかりでなく、患者の生活の質向上にもつながります。
6. 健康長寿を妨げる難病克服の鍵は「医食同源」思想への回帰
オールインワン・メッド時代に先行して主役となっているSGLT2阻害薬ですが、新薬開発究極のターゲットは「人類の備えている自己免疫力の活性化」主役は徐々に変わっていくでしょう。
レスベの作用機序に倣ったツイミーグ(イメグリミン)がこのコンセプトに最も近いところにいますが、量産の必要上、主要素材は合成化学の産物です。
天然と異なり、拮抗作用する安全弁的物質が存在しませんから、高度な安全性確保は、いまだに出来ていませんが、人類の知恵がその難題を解決するのは遠い先ではないでしょう。