世界の誰もがSirs-CoV2ワクチン完成を心待ちにしていると思いますが、
今回のウィルスは不明点が多く、とりあえずのワクチンが完成しても
効能の持続性、後遺症や国家、医療機関が受けた様々な傷が癒えるのはいつになるでしょう
これまでの日本やアジアでは、なぜか感染者、死亡者が少ないために
被災意識の少ない人が多いですが、なぜ少ないのか? ファクターXといわれたまま
それが解明できていないほど、Sirs-CoV2は不気味なウィルスです。
身を守れるのは予防だけ. 三密回避と免疫力強化.
予防を安易に考えてはいけないでしょう。
ワクチン完成後も長期化するSirs-CoV2の猛威
- 1. ファイザー社ワクチン開発主任がハドソン川の夕日と乾杯
- 2. ニュース・レリースの一般的問題点
- 3. 歪んで報道されたファイザー社の新ワクチン・ニュース
- 4. ニューズレリースに疑念を抱いた感染症の権威ピーター・ホテス博士
- 5. ホテス博士が警戒するSirs-CoV2事態の長期化(years and years)と軽症若者の感染後遺症
- 6. すでに始まっている後遺症との戦い
- 7. ビオンテックの新コロナワクチン開発
- 8. ビオンテック社CEOのサフィン(Ugur Sahin)氏が開発経緯の解説
- 9. ファイザー社は緊急申請(*EUA)で承認を求める予定
- 11. ファイザー社のニューズレリースに関係者のコメント
1. ファイザー社ワクチン開発主任がハドソン川の夕日と乾杯
先週、急遽レリースされたファイザー社のSirs-CoV2ワクチン開発に関するニュース.
受けを狙ったマスメディアのセンセーショナルな報道で世界中が大騒ぎ。
2020年11月8日の日曜日夕刻。
ニューヨーク市マンハッタン中央部のハドソン川沿いで
夫と夕日を眺めていたファイザー社のワクチン開発(vaccine R&D)担当主任
キャサリン・ジャンセン(Kathrin Jansen)さん。
ファイザー社の本社はニューヨーク市のマンハッタン地区中心部にあります。
そこへCEOのボルラ(Albert Bourla)氏からの電話。
ボルラ氏は「新ワクチン治験の*中間解析で待ちに待った良い結果の兆候が出た」
「ワクチンはSirs-CoV2による感染兆候に対し90%以上の抑止力効果を示した」ことを伝えました。
夕日とボルラさんとキャサリン夫婦はリモートで抱き合い、乾杯。
これはニューヨークのある医療ニュース・ライターのロマンチックな描写。
ファイザー社は次世代ワクチンと言われる革新的な*メッセンジャーリボ核酸技術を使用して
Sirs-CoV2ワクチン製造を試みており、その候補の*大規模プラセボ対照試験を実施しています。
ボルラ氏の電話はその中間解析の報告内容。
ボルラ氏は「100年に一度あるかどうかの大発見」と興奮して喜んだそうですが
Sirs-CoV2の話ばかりで喜んだのではないでしょう。
このプロジェクトの新技術は癌など多くの難病予防や治療研究から転用されているもので、
Sirs-CoV2ワクチン製造に成功すれば、多くの医薬品開発へ発展することを期待できます。
キャサリンさんは早速夫とスタッフたちでシャンパン・トースト。
(champagne toast:結婚式の乾杯とは異なります)
次の日には開発を主導したパートナーのビオンテック社(ドイツ)と共に「ファイザー社の
Sirs-CoV2ワクチン候補に期待以上の成果があった」ことをプレス発表。
世界中の他のスタッフも加わってお祝いをしたそうです。
*メッセンジャーリボ核酸技術:revolutionary RNA technology
*大規模プラセボ対照試験:a massive placebo-controlled trial
*中間解析:an interim analysis
2. ニュース・レリースの一般的問題点
ここで注意すべきは、このニュース・レリースは世界中に流されましたが
誤解を招く報道が多々あったこと。
医療関係のニュース・レリースは一般人が誤解しやすい点が多々あります。
癌など難病の医薬品開発の中途で出される場合は投資資金集めが目的のケースが多く
おいしいことを並べ、いかに素晴らしい研究が進んでいるかをセンセーショナルに
アピールするケースがほとんど。
発表されるものは「明るい兆し」という程度の段階が多く
クリヤーしなければならない困難なハードルに関しては、まず公表しません。
成功率が低いケースが多いために、一般の方は十分な注意が必要です。
通常はベンチャーとそれをバックアップするベンチャー・キャピタル、個人投資家、
証券業者が株価をつり上げて開発投資を誘い、大々的に報道します。
今回のように一部のビッグファーマが意図的にレリースすることも珍しくありません。
医療関連ニュースには十分気を付ける必要があります。
ニュヨーク株式市場ではファイザー社ばかりでなく、パンデミックで
ダメージを受けている企業の株式が急騰したのをご存じとおもいます。
3. 歪んで報道されたファイザー社の新ワクチン・ニュース
新聞、テレビ、オンラインのニュースはSirs-CoV2ワクチンのことを十分に理解していない人が対象となるため、報道メディア相手のニュースレリースと異なり、
本来は負の部分も含めて、かなり詳細な注釈が必要となります。
なぜ今の時期にレリースされたのかは憶測が飛び交っていますが、先進、先行するドイツのキュアバック社や米国のモデルナ社、イノビオ社にビオンテック社が追いついていることを示したかったのか、アメリカファーストのトランプ大統領への当てつけか、噂話がささやかれています。
一つ言えることは従来のワクチン製造で最大手のファイザー社にはプライドがあり、未熟なレリースはワクチン開発、製造の難しさを知る多くのベテラン幹部の本意ではなかっただろうことです。
ファイザー社はFDAが時期尚早と制止するのを無視してニュース・レリースを各国に流しましたが「中間解析で明るい結果が出ている」という報告であり、「Sirs-CoV2ワクチン開発に成功」ではありません。
ところがCOVID-19は各国の経済が崩壊しかねない勢いで拡大が続き、制御に術(すべ)がないお手上げ状態。
メディアのセンセーショナルな報道は少しでも明るいニュースが欲しい人々への過剰サービスかもしれません。
レリースの「治験では予期せぬ90%以上の抑止力効果が見られた」の「90%以上」という数字が独り歩きしています。
この数字は一見、統計学でいう「サンプル抽出統計」に似ていますが、だれにもわかりにくい未熟なものです。
レリースをよく読めば成功を断定する言葉は入っておらず「成功する兆しが見えた」という程度の内容です。
来るべきハードルを予見させる負の部分も(小さく)示唆しながらレリースしていますがマスメディアは「ワクチン開発に成功」「90%以上」とシンプルに報道。
まだまだ問題の多い点は意図的に何も報道しませんでしたから、ニュースは世界を駆け回り、歓喜の嵐を巻き起こしました。
日本では政府を筆頭に東京オリンピック関係者や、大きな被害を受けている陸海空の運輸業、ホテル、飲食業、お土産製造販売など観光業関係者などが欣喜雀躍(きんきじゃくやく)。
不安を少しでも和らげようとしているのでしょうが、罪作りな話です。
4. ニューズレリースに疑念を抱いた感染症の権威ピーター・ホテス博士
ハドソン川を眺めてリモート乾杯のロマンチックな報道に
「行く先のハードルは高く、シャンパン・トーストはまだ早い」
「今の段階では、私はシャンパンのコルクはそのまま、抜栓はしない」と異論を唱えたのが、
ベイラー医科大学(Baylor College of Medicine)のピーター・ホテス博士(Peter Hotez)。
イェール大学(Yale University)、ロックフェラー大学で学位を取った熱帯感染症やワクチンの権威であり、Sirs-CoV2ワクチン開発を目的とする有識者会議のメンバーです。
「企業のニュースレリースにはいつもながら肝心なデータが無く、茶葉(真相、心髄)を
見つけることができない」とロマンチックな表現でお返し。
(It’s always hard to read the tea leaves of a company press release)
「肝心なのは誘発された抗体がSirs-CoV2ワクチンに対しどのくらい免疫効能が続くのかであり、それがわからない(この難敵は免疫の攻撃をかわす豹変度が非常に大きいそうです)」
数少ない治験程度でなく、広い範囲で使用された場合に新ワクチンが「感染率が低くなるのか?」「感染を防ぐのか?」も不明
「新ワクチンが審査で承認されても、多くの人が恩恵を受けるのは、まだまだ先。
(-7~80℃)のコールドサプライチェーンすら整備されていない」
「感染しやすいといわれる高齢者に対する効能が不明」
「治験方法を公開すべき」:ビッグファーマは治験方法を各自が独自の方法で行うといわれます。
ピーター・ホテス博士はインタビューで、このような指摘をしていますがこれにはFDAの元主任研究員でジョージタウン大学のグッドマン博士(Jesse Goodman)が大賛成。
5. ホテス博士が警戒するSirs-CoV2事態の長期化(years and years)と軽症若者の感染後遺症
公衆衛生学、感染症の権威としてマスコミで語るホテス博士は
「Sirs-CoV2から若者を隔離すべき」
「このウィルスはこれまでにない難敵。若者は発症が軽くても将来にその感染が重大な結果となる可能性がある」
同時に「米国はワクチンが普及した後にも、途方もない長年間(years and years)このウィルスの影響から逃れることができないだろう。それくらい今起きていることは重大事」と警告しています。
(the US can expect to be affected by coronavirus for 「years and years」)
6. すでに始まっている後遺症との戦い
ご存じのように欧米の感染者増は目を覆う惨状。
ウィルスや治療医薬品による傷は腎臓、肝臓、骨髄、脳視神経など広範囲に及び、60%を超える確率で後遺症の発症が危惧されていますが、体感の早い脳視神経異常や味覚喪失、脱毛を訴える人が急増しています。
重症患者で救命された方は、腎臓、肝臓へのダメージを訴える人がほとんど。
Sirs-CoV2ワクチンが広く出回るのはまだ1年以上かかります。
これまでの5,000万人を超える感染者と、その数を上回るだろう無症状感染者には後遺症発症の可能性がありますが、今後の感染者数が加われば、
その総数は途方もない大きな数字となるでしょう。
見切り発車するSirs-CoV2ワクチンの安全性がインフルエンザワクチン並みなら成功と言えますが、それは億人単位の接種が済んだ後、何年か経過しなければわかりません。
後遺症にワクチン被害が加わらないように、開発関係者は苦戦しています。
(参照)
7. ビオンテックの新コロナワクチン開発
癌の治療にmRNA ワクチンを応用する研究をしていたベンチャーのビオンテック(BioNTech)社は
ファイザー社とSirs-CoV2ワクチン開発を目的として提携しましたが、CEOのサフィン(Ugur Sahin)氏は開発の成果について第8項のように述べています。
(ビオンテックに関するノギボタニカル・ロハスケの記事)
トランプ大統領が招集したCOVID-19緊急ワクチン会議 キュアバック、ビオンテック、モデルナ、イノビオ、ジオヴァクス2020/03/12
8. ビオンテック社CEOのサフィン(Ugur Sahin)氏が開発経緯の解説
「研究では人間の細胞に取り付いたSirs-CoV2の細胞膜表面たんぱく質(スパイク)の
20以上の異なった部分をテストしました。
結果、多くのメッセンジャーリボ核酸(mRNA)が免疫の*樹状細胞(dendritic cells)上に取り付いて抗体を発生させていることを発見。
発生抗体の影響を受けたT細胞(胸腺の免疫細胞)が活性化してウィルスを攻撃していたことも確認。
その樹状細胞にワクチンを働かせる機能解明には長期間を要しましたが、(初期の実験では)mRNAが最も有用なことを知りました。それが我々の研究が差別化される要因(key differentiator)でしょう」
ファイザー社は今回の開発はすべて自己資金と称しますがトランプ政権のワープスピード(Warp Speed)資金の恩恵を間接的にせよ受けているビオンテック社が中心となり開発していますから、ファイザーがワープスピードの恩恵を受けていることになります.
9. ファイザー社は緊急申請(*EUA)で承認を求める予定
治験の第二段階では154地点で44,000人規模となっているのは報道の通りで間違いはありませんが、ニュースリリースで説明された治験結果の中間報告は、100人に満たない、ごく限られた少数の事例。
中間で得られた結果が何人のワクチン接種グループに対し何人の偽薬投与グループから得られたのか、二重盲検では重要な数字が明らかではありません。
緊急事態の承認申請は半数以上のワクチン接種グループが2回目の接種(このワクチンは2回接種)を終了し2か月が経過しなければ承認されませんから、現段階で大騒ぎするのは時期尚早でしょう。
FDAの新ワクチン審査委員会メンバーのメスナー博士(Cody Meissner:タフト大学医学部教授)は(真意かどうかはわかりません)が「Sirs-CoV2ワクチン開発が成功すれば勇気づけられる良い報告だが、開発会社は明らかにワクチンをビジネスとして売り込みたいのだから、委員会の誰もが審査には健全な懐疑心(healthy skepticism)を持って臨みます」と辛口の発言をしています。
それでも様々が不明な時点で先へ進んでいるのは、すべて「緊急」事態だからで、「すべては走りながら考え、*EUA承認を得よう」というのが現状なのでしょう。
*二重盲検:double blind test:本命と偽薬の2グループに分けて投与効果を測る
*EUA:emergency use authorization:緊急承認
10. 樹状細胞(dendritic cell)とは 利根川進博士
獲得免疫に働く免疫細胞の形状に樹木的な突起があるために樹状細胞と呼ばれます。
樹状細胞は脊椎動物に侵入した病原体の種別を識別する先兵の働きをします。
抗原提示細胞ともいわれ、取り込んだ病原体(pathogens)の情報を、
抗体となるT細胞、B細胞など他の免疫系細胞に伝え、対応(適応)をさせます。
樹状細胞はこの対応で体細胞に高頻度変異(Somatic hypermutation)を起こさせることが
知られており、この働きが適応(adaptive)という言葉の元となっています。
免疫理論の研究は日本も進んでおり、1987年のノーベル医学生理学賞は
利根川進博士(当時48才)が抗体の多様性、免疫遺伝子に関する研究で受賞。
残念ながら日本人の有力研究者の多くは米国で研究をしており、京大から
カリフォルニア大学サンディエゴ校に進学し、現在はマサチューセッツ工科大学教授として
ピカワ研究室室長(Picower Institute)。すでに半世紀を超えて米国在を続けています。
11. ファイザー社のニューズレリースに関係者のコメント
NIH*の生命倫理学者(bioethicist)グラディー(Christine Grady)さんは「ニュースレリースの根拠となったデータはごくわずか。
FDA認可を得るためには、これから治験参加者数万人の抗体持続性、安全性、情報収集を
していくのだろうが、プラセボ(placebo)を使用させられていたことが判明した治験参加者がアンケートなど情報収集に協力してくれるのか心配、倫理的には強制できない」と話しています。
* NIH: the U.S. National Institutes of Health
フレッド・ハッチンソン癌研究所のワクチン研究者コーレイ博士(Lawrence Corey)は
「いくつかの新ワクチン候補を試してみましたが、驚くべきワクチン開発技術の進歩で、離れ業ともいえる偉業を達成している新ワクチンがいくつかあり、科学がウィルスの秘密の暗闇を切り開いた」と驚きを隠せません。
*Gaviの理事長バークレイ(Seth Berkley)氏は「メッセンジャーリボ核酸の抗体生成を基盤とするワクチンは多くの企業が開発中で、いずれも安全性確保の技術開発に集中していますから、一般的ならば数十年かかることでも、これまでにないスピードで解決すると期待しています」。
「モデルナ社などは懸念されている超低温(-7~80℃)サプライチェーンが不要なワクチンを開発しており新しいワクチンのいくつかが同時期に使用開始されるでしょう」とコメント
ただし、*CEPIのルーリエ(Nicole Lurie)さんなどは「良いワクチンができそうだが、公表されている予定生産量が当初は50万(dose:1回分の摂取量)、2020年内が5,000万(dose)と、とても少量。
来年は13億(dose)といわれるが、実現性は明確ではありません。
緊急を要請している先進富裕国の契約済み数量を賄うのも至難?(契約国は日本も含まれます)
世界に*COVAXが公平に配布できるかがとても心配」と
配布の数量、時期と公平性に不安を述べています。
*GAVI:感染症ワクチンと予防接種のための世界同盟
*COVAX:新コロナウィルス対策に富裕諸国より拠出金を集めてワクチンを共同購入し配分する172国の同盟組織。
当初はGAVIの連携組織として低所得92の加盟国に配分する
*CEPI: Coalition for Epidemic Preparedness Innovations
SARS-CoV-2ワクチンに限らず世界的感染症の防疫のための
資金を集める国際団体。