マンゴーの成木。たくさんの蕾と花をつけています。(チェンマイ)
広い庭のあるタイの家では樹高15メートルにもなる果樹を植樹し、身近に
樹木の若芽、シュート(幼莢)、若葉、つぼみ、花、樹皮などが収穫可能。
通年で得られるため、多くの人がそれらを野菜として利用しています。
商業用や愛好者が栽培する場合は収穫に便利な低木に仕立てます。
健康長寿と強精強壮に寄与するタイの伝統的樹木菜、極小野菜、香辛料の秘密:
A secret of healthy edible shoots, etc
- 1.新鮮野菜の工業化、工場化で失われる栄養素
- 2.スリムなタイ庶民が守る伝統食
- 3.臭気が病みつきとなる樹木菜のサダオ(サダーオ)とチャ・オム(シャ・オム)
- 4.強烈な臭気はサダオ以上の豆野菜がサトー
- 5.野菜の原点は栄養素が凝縮された極小野菜
Secret of healthy edible shoots, flowers & tiny size vegetables
(写真上)ファ・チャイ・タ(Hua chai thau:Hua chai ta):小ダイコン - 6.タイ料理では トウガラシ、ナス、コショウで辛さを追求します
(トウガラシ、ナスは他に詳細な記事があります。工事中ですが順次解説リンクをご紹介します)
1.新鮮野菜の工業化、工場化で失われる栄養素
日本では新鮮野菜は歩留り向上を目指して工業化、工場化が進んでいますが、
工業化に伴う栄養素の低下はすでに世界中で懸念されています。
「Declining Fruit and Vegetable Nutrient Composition」
最近の50年間で新鮮野菜の栄養素が相当量減少しているという仮題で調査研究を
進めているのはテキサス大学農学部バイオケミカル研究所
(University of Texas Biochemical Institute, Austin)の
ドナルド・デービス博士(Dr. Donald Davis)
米国農務省(U.S. Department of Agriculture)のデータに基づいて分析していますが、
比較に使用したい50年から60年前のデータはタンパク質や一部のビタミン、ミネラルだけ。
最も重視したいのが新鮮野菜の重要成分であるポリフェノールなどのPhytochemicalsですが
当時は認識度が低かったために全くといってよいほど記録がありません。
したがって手間のかかる他の方法を選択するために確定的な結論は時期尚早としていますが
これまでの研究成果を昨年末にthe Journal of the American College of Nutrition.に発表。
比較出来たミネラル類では5%から40%減という調査結果がでているそうです。
集約化が世界一といわれる米国の農畜産業。歩留り向上が最大課題。
新鮮野菜の約50%を全米に供給しているカリフォルニア州は
露地栽培の土壌疲弊による栄養素低下が近年最大の問題点。
合成化学肥料や農薬との兼ね合いもあり、解決がむつかしいといわれています。
栄養価低下は狭い国土の日本ではより深刻。
工場化が進み人工太陽、水耕栽培までが拡がりつつあります。
販売を伸ばすために「苦い、辛い、匂いなどの癖(くせ)がある機能性成分(phytochemical)」を
除去した品種改良も究極といえるほど進化。
苦くないゴーヤ。子供が嫌いな匂いを極力抑えたピーマン。刺激臭の無いたまねぎ。
日本発「世界でも稀な美味しい野菜と果物」
そして「世界有数の栄養素の欠けた野菜と果物」の市場支配が進行中。
日本人の新鮮野菜による栄養摂取で最も重要なのは、摂取不足が少ないビタミン、ミネラルよりも
ポリフェノールなどの機能性成分(phytochemical)。色素、香り、渋味、苦味の原点です。
日本では料理の評価基準に栄養素が入らず、見た目の美があり、味さえよければ合格。
世界一ともいえる野菜王国のタイ。
ここでも集約化、工場化が進み、日本の品種改良種栽培が広まりつつありますが
まだまだ伝統的な野菜種が残っており、その愛用者も少なくありません。
2.スリムなタイ庶民が守る伝統食
野菜類は健康維持にもっとも重要な食材。
賛否は別として野菜中心のヴェジタリアンでも生きていけることが何よりの証。
その重要食材が経済性や味覚優先の工業的近代化によって本来の姿を失いつつあります。
先進国による品種改良、促成栽培、水耕栽培、ハウス栽培、大量の化学肥料。
対候性、耐病害虫性の改良で始まった品種改良は止まることなく進展。
近代的な改良(良いかどうかは?)にはビタミン、ミネラル、栄養素強化の改良も
ありますが、機能性成分(phytochemical)は安定した添加技術が未熟。
コストパフォーマンスが悪いために開発の主流にはなりません。
野菜好きなタイ国には隣国や西欧から様々な野菜が持ち込まれています。
最近のタイ国は品種改良で「くせ(五感に対する刺激)」を最小限にした野菜が増え、
比例して肥満、脳卒中など不健康人も増えています。
そんな近代化の流れに逆らうがごとく、タイではまだまだ健康志向な伝統食材が健在。
植物が自然と戦うために備えているポリフェノール、テルペノイド等の機能性成分(phytochemical)や
ファイトアレキシン(フィトアレキシン:phytoalexin)を最大限に活用する
自然な食生活が現存しています。
「アロマと健康を創るテルペノイド類」
タイには東北部中心(イサーン)に貧困から草木を食材としていたという歴史的な
一面があります。
その保健効果を認識して、野菜栽培の先進性、経済性優先を嫌い、
伝統的食生活を愛する都会人もまだまだたくさんいます。
伝統食材とはいっても原産国ではないものがほとんどですが、数百年にわたり
医療効果の高い素材を追い求め、それを食材として美味しい料理に消化してきた歴史は
他国よりぬきんでています。
(写真上)シーズンには樹木菜のサダオ(下記参照)が野菜売り場の華。
東北部人(イサーン)が中心となり全国的に愛好者がいます.
強烈な香りは健康の元.枝を付けたまま氷漬けで鮮度を保っています.
常食されている伝統野菜の特徴は「樹木菜」「極小野菜」「香辛料」。
貧困ゆえに自然と共生して「あるがまま」の原始的な食生活。
動物的ともいえますが、食せる(edible:エディブル)樹木のあらゆるパーツを
貪欲に食べるのは貧困層の特権(?)ではありません。
畑で育てる品種改良や肥料が少ない、ごく小型の野菜や花野菜には栄養素が凝縮されています。
身近にある樹木の若芽、シュート(幼莢)、若葉、蕾(つぼみ)、花、種、樹皮などは
いずれも野菜。樹木菜を食する習慣は東北人ばかりでなく健康おたくの習慣ともなっています。
樹木野菜の種類は果樹が中心ですが永年にわたり選別してきた優れものばかり。
樹木野菜の強い香り、苦味、辛味はポリフェノール配糖体、テルぺノイドなどの
機能性成分(phytochemical)が主体。
あまりに多種多様で紹介しきれませんが、特に野菜としてメジャーなチャンピオンクラスを
いくつかご紹介します。
3.臭気が病みつきとなる樹木菜のサダオ(サダーオ)とチャ・オム(シャ・オム)
樹木菜は畑の野菜に比して機能性成分(phytochemical)のポリフェノール、テルペノイド、
アルカロイドが豊富。
全国的にメジャーな二つに絞れば樹木の新芽、蕾(つぼみ)を食する
サダオ(サリアム)、チャ・オム(シャオム)。
いずれも強烈な臭いが特徴で一般的な日本人旅行者にはお奨めできません.。
機能性成分(phytochemical)が、病みつきとなる独特な強い香りの元となります。
樹木は品種改良の加わることが少ない分、栽培種の野菜に較べ独特な栄養価を持つ、
健康菜、薬用菜といえます。
a. サダオ(サダーオ)(Sa・d ao)
和名:インドセンダン
英名:Neem(ニーム)
学名:Azadirachta indica(Meliaceae)
インド原産のセンダン科の樹木.赤身の建築、家具素材。
比重0.8の硬い材木として建築、内装に使用される。
新芽と蕾が食用になる。
寄生虫駆除に使用される種類のテルペノイド、アルカロイドを持つ。
強い香りに慣れたタイ人には美味として愛好者が多い。
生肉のラープ(Lap)や昆虫を食する人には寄生虫、細菌駆除に
役立つと信じられている。
ラープ(ラップ)は東北人(イサーン)独特の料理で生肉のタルタルステーキや韓国のユッケに近い。
(最近の都会人は安全のためにラープは肉を炒めます)
(写真上)昆虫食材を販売する屋台にはサダオが置かれています。(チェンマイ)
b. チャ・オム(シャ・オム:Cha・om)
学名:Acacia pinnata:Acacia Insuavis, Lace
香りが強いネムノキ科の野菜(phak).タイ、カンボジア、ラオスで好まれます。
タイではタイ東北部御用達といわれますが全国的に販売されています。
アカシアに近い品種。香りが強いために、タマゴ料理、肉料理などの炒め物や汁料理(ケーン)に加えます。
調理前の香りで敬遠した人もタクライ(パクチー)同様に、一旦食するとその香り、苦味に
病み付きになることが多いといわれます。
北タイではサダオと同様に昆虫食の付け合せとして用いられます。
4.強烈な臭気はサダオ以上の豆野菜がサトー
写真上左の右端がサトー.真ん中上はケーバーン.その下がシャオム.右の写真はむき身のサトー
(写真上)生豆は傷みやすいため保存用の乾燥サトーが売られる
和名:ネジレフサマメノキ
学名:Parkia speciosa
硫黄系の強烈な香りは日本人向きではありませんがシャオム、サダオと並んで
病みつきなタイ人が多い。
南部に多かったようですが最近は全国で販売されてメジャーとなっています。
ゲーン(汁物)、炒め物が主流。
5.野菜の原点は栄養素が凝縮された極小野菜
Secret of healthy edible shoots, flowers & tiny size vegetables
(写真上)ファ・チャイ・タ(Hua chai thau:Hua chai ta):小ダイコン
世界中に普及しているトマト、ナス、かぼちゃ、キュウリ、タマネギなどが、
タイの地方では原種に近いだろう、ごく小さなものも一般的に食されています。
野菜類は肥料や降雨量が少ないと成長しませんが、
改良を続けた野菜はそれでもある程度は肥大化します。
大都市では日本などから輸入された種苗を使用した大型の改良品種が売られており、
全国的な拡がりが急速に進んでいますが、原種キャベツのケールや青梗菜(チンゲンサイ)も
タイでは小さい品種がいまだ売られています。
化学肥料、品種改良で肥大化した野菜に慣れている他国の人々には異様なほどの小ささ。
人が手を加えることの少ない野菜、山菜は美味という点からは改良種にはかなわないかも
しれませんが、化学肥料で肥大化した外来野菜は病害虫に弱く、農薬の危険性が高くなります。
香り、苦味、辛味が強い在来の小さな野菜は、機能性成分(phytochemical)の
ポリフェノール類、テルペノイド類やビタミン、ミネラルの凝縮が期待できます。
小ぶりな日本の「辛味大根」がアリルイソチオシアネート(allyl isothiocyanate)豊富なことを
イメージしてください。
貧しい東北人ばかりでなく、都会人でも慣れている人々にはそれが「美味」でもあり、
健康野菜となります。
生産者が求める経済性の「単位面積当たりの収穫量増大」「歩留まりの向上(農薬の使用)」
「化学肥料と品種改良による肥大化」「促成栽培」と「美味追求」は「健康」を求める消費者にとって、
相反することが示唆されます。
カーオ・フォトン(Khaao-phot-on):ベビー・コーン、小メイズ(トウモロコシ)
テーン・コア(Teng kuwa:Theng koa):小キュウリ
マクワ・テー(Makua teet:Makhua thee):小トマト
ファッ・トーン(Fak thong):小カボチャ(Cucurbita pepo種)
ファ・チャイ・タ(Hua chai thau:Hua chai ta):小ダイコン
ホム・ファ・ヤイ(Hom hua yai):小タマネギ
マラ・キーノック(Mara khinok):小ニガウリ(ゴーヤ)
マクワ・ヤーオ(Makhua yao):小ナス
ファッ・ケッ・カーオ・プリー(Phak kaet khaao plee):小白菜
パッ・ホンテー:小振りのチンゲンサイ
パァッ・カ・ナ(Phak Ka Na):チャイニーズ・ケール
トマト、キュウリ、オクラ、キノコ以外の丸い6種類の野菜はすべて茄子(マクワ)
「ナス科野菜のクロロゲン酸が高血糖を防ぎ肥満防止に」
6.タイ料理では トウガラシ、ナス、コショウで辛さを追求します
(トウガラシ、ナスは他に詳細な記事があります。工事中ですが順次解説リンクをご紹介します)
とうがらし、胡椒(コショウ)、茄子(なす)などによる辛さの追求や
局外者には耐えられないほどの強い野菜のテルペノイドの刺激も、タイ人には
刺激が物足りないようです。
タイ人はその刺激を唐辛子(とうがらし)、コショウ、小型のなす(マクワ・ポワン)など
にも求めています。
タイではトウガラシがあらゆる食の機会に生の状態でふんだんに提供され、健康長寿の秘訣の一つですが
最強の健康鉄人の国であるベトナムなど旧インドシナ各国はタイ人や韓国人ほど好まないようです。
香りが強い、辛いほどうま味があり、薬用効果が強いのは自明ですが「過ぎたるは猶及ばざる如し」。
a. プリック・タイ・オーン(Prick・tai・ohn).
和名:胡椒(こしょう).
英名:Black pepper.
学名:Piper nigrum
生の胡椒(コショウ)故にグリーンであり、通称グリーン・ペッパー。
乾燥させた黒コショウと香りは同じだが、異なった新鮮さがある。
香辛料として煮込み(ケーン)やサラダに使用する。
酢に漬けたものをケッパーのように使用すると美味しい。
b. サ・カーン(Sa-Khan)
学名:Piper interruptum Opiz.
中国式通称:疏果胡椒
野生の太いつる性の幹をカットして粒胡椒のように利用する。
テルペノイド類を分離した学者はその成分を
crotepoxide. eupomatene. pipercallosineと名付けている。
(生鮮食材研究家:しらす・さぶろう)
初版:2007年02月10日
改訂版:2011年2月
改訂版:2014年2月
改訂版:2015年7月
改訂版:2015年10月
改訂版:2023年10月