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ケン幸田の世事・雑学閑談(千思万考)

第五十五話:「ASEAN経済共同体への期待」

東南アジア諸国連合(ASEAN)が48年前に誕生した際は、元々「政治・安全保障」と
「社会・文化」両面で、共産主義化を逃れる等の意図から連携を深めたことが出発点で、
経済面の連携は緩やかで、急がず慌てずに前進して来ましたが、
昨年末に至って急遽、AEC(アセアン経済共同体)を発足させ、「経済」面の結束を
一層強化することとなりました。
共同体発足(経済統合)予定の2020年を、5年も前倒しした背景としては、
アセアン10か国の内4か国が加盟するTPPの大筋合意や中国経済の失速によるものと
考えられますが、地域経済の成長加速を急ぎ、世界経済とのつながりを強化拡充させたいとの
焦りもあったと思われます。
 
アセアン加盟国は、当初インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシアの
5か国でスタートし、その後ブルネイ、ベトナム、ミャンマー、ラオスにカンボジアが加わり、
総人口は6億人強とEUの5億人、NAFTAの4.6億人を上回り、
GDPは日本の約半分程ですが、人口ボーナス(国連予測では2030年までに7億人超え)と
経済成長が期待できる有望な単一経済圏(外国直接投資、外貨準備、輸出額などを合算すると
中国並みの高い数字を上げている)と見られています。
人口オーナスを抱え、経済低迷次第では共産主義独裁政権の行方も案じられる中国を除けば、
アセアンに人口ボーナスも期待されるインドも含めると、人口20億、
GDP7兆ドルの大市場がアジアに展開される訳で、日本や豪州を含め、米州太平洋岸諸国を含む
TPP加盟国にとっても、大いに期待される市場と考えられます。
 
AEC経済共同体の目標は、単一市場・単一生産拠点、関税撤廃(現在90%台の進捗度)、
インフラ開発、公平な発展と域内格差の是正により、広域アジア機内分業体制を
構築することに置かれているようで、EU型の共通通貨や関税同盟などは工程表になく、
「巨大な自由経済圏」を緩やかな連合で達成したいと考えられているようです。
尤も労働力の移動自由化、熟練・技能職の教育訓練と流動化、資本移動と自国産業保護障壁など、
今後解決を余儀なくされる課題も山積しており、加盟国の一般市民と
政府間の調整が避けられません。
 
また、国際的には、TPPやAIIBを通じての米日豪中との外交・通商・資本取引等にも
不即不離を貫きつつも、分断されたり、強国に飲み込まれてしまわないような
自存自衛策が求められてくるでしょう。さらに気がかりなのは、今般アセアンのなかでも
イスラム教徒の多いインドネシアのジャカルタでテロ事件が発生しましたが、
今後のイスラム過激派が東南アジアに深く踏み込んでゆくのか、
それともカザフ、ウズベク、タジク、キルギス等中央アジア経由で東進し、
中国内に二千数百万人におよぶ多数のイスラム教徒を抱え、漢民族の抑圧に耐えてきた
ウイグル族や回族への関与を強めるのか、という一点にあります。
 
日本企業にとっては、平和さえ維持されれば、そのアセアン域内へ進出することで、
特に製造業において、安価な人材の活用による労働集約が期待され、
併せて域内輸出の増加など多くの利点が見込めそうです。域内関税が多く撤廃され、
非関税障壁の改善も見られると、域内分業による生産拠点と物流の最適化が得られ、
コストの大幅な削減が可能となるなど、投資・製造・販売を一貫した企業負担は激減しそうです。
ただ、それに至る途上で、インフラ整備、エネルギー対策等において、
国策的な支援とか参画・訓練指導等が要請されることを覚悟し、
一方で医療、技術教育・文化、環境対策などでも、積極的な関わり合いが避けられないでしょう。
 
原油価格を初めとする鉱物資源や食糧などの一次産品価格の急激な下落に加えて、
アメリカのゼロ金利政策の終焉と言うショックは、中国経済の急降下、ロシアの低迷、
ブラジルの多重危機によるBRICKS(インドを除く)新興国債務の更なる悪化を余儀なくさせ、
世界経済沈下の最大病根となっております。既に、中南米の火種は留まるところを知らず、
アルゼンチン、ベネズエラでは、経済危機が政治へと飛び火して、前者は大統領が、
後者は国会議員が左派から中道右派に、それぞれ入れ替わっております。
 
ブラジルのルセフ左派政権は支持率が13%へと急落し、オリンピック頼みの政権浮揚は風前の灯だし、
ペルーの左派政権も支持率急落中で、来たる四月の大統領選では
右派の大統領(フジモリ元大統領の子女ケイコ女史)誕生が確実視されています。
いずれも、社会主義政策の破たんと経済失速の影に輸出失速(中国の購買力減退が主因)が
上げられており、左派政権の頼みの綱だったキューバの半世紀を経ての
米国との国交回復に代表される現象で、その衝撃も大きく、ボリビア、エクアドルの
左派政権も崩壊が近いと見られています。アフリカが依然として暗黒大陸イメージからの
脱出に時を要している中、第二次新興国家群として期待されるのは、
アセアンをおいて他には無さそうです。
 
アセアン共同体を東西から支えつつ、自由経済圏における共存共栄を図ることができるのは、
やはり先進成熟国日本と中国に代わって経済成長前期にあるインドであるべきでしょう。
そして、これに海洋安保面で協力が欠かせられないのが、米国とオーストラリアでしょうか。
即ち、安倍首相の説く「アジアの民主主義セキュリテイ・ダイアモンド構想」こそ、
日本の取るべき大戦略であると考えます。
つまり、日本を頂点とし、東方にアメリカ、南方にオーストラリア、
そして西方にインドが位置して、西太平洋に“ひし形の海洋域”にまたがる権益を保護する、
“民主主義・自由経済圏”の“安全保障体制”の構築こそ、次なる世界経済興隆の核心と言えるのです。
今年後半には、外交的無為無策で世界のリーダーシップを放棄したオバマ政権が無力化し、
次期大統領候補が(共和・民主を問わず)二者に絞られ、米国のリーダーシップが回帰することで、
中露欧の相対的弱体化が見込まれることから、世界の信頼が厚い我が日本が檜舞台に
躍り出る最高の機会がやって来そうです。 

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