覚醒剤で極度に錯乱した若者による重大な交通事故や
殺人、傷害事件が多発するようになりましたが、
その背景はドラッグ取引価格の急騰により、粗悪で毒性の強い
格安代替品の蔓延。
各国が年々覚醒剤の取締りを一段と強化し、
これまでの覚醒剤供給量が細っているからです。
1.エヌ・ボーム(NBOMe)とは
エヌ・ボーム(NBOMe)は本来メトキシベンジル(N-methoxybenzyl.)を指しますが、
一般的にNBOMeと呼ぶときは様々なタイプのNBOMe入り覚醒剤を
指すようです。
その中で最も一般的なのがシュルガン博士(Dr Alexander Shulgin.)が発見した
フェネチルアミン2C系幻覚剤(2c family of phenethylamine psychedelics).
このファミリーの一つ2C-Bはエクスタシー(MDMA)の代替品として
1990年代に一般的になったものです。
この派生品には25B-NBOMe.、25I-NBOMe 、25C-NBOMeなどがあります。
NBOMe自体は禁止されていない国が多いようですが
ネットなどで公然と売られているデザイナース・ドラッグには禁止されている
2C系と構造的に類似しているものが少なくありません。
2.2C系(2C family)の化学合成
NBOMe を含有する2C系(2C family)が米国ペルデュー大学(Purdue University)の
デービッド・ニコルス(David Nichols)らによって合成されたのは21世紀初め。
ごく最近のことです。
以後いくつかのNBOMe入りドラッグがデザインされ合成されました。
当初目的はセロトニン作動系の働きをより効果的にする新しい精神病治療の
医薬品開発。
2010年にはネットを利用して一般人からNBOMeの作用に関する経験の
事例証拠を集めました。(治験に近いものです)
経験者の情報を集約するとMDMAよりLSD に近い作用があるようです。
作用の強い薬物であり、
例をあげればNBOMes 0.05㎎はMDMA125㎎に匹敵しました。
これがNBOMesを過剰摂取して危険にさらされる原因でしょう。
3.重篤な副作用を持つNBOMe
NBOMeはごく微量(1回の摂取量50-250ug)で効果があります。
製造コストが安く(主として中国といわれます)、
販売価格は1㎎で25セントから5ドルくらい(米国のケース)。
非常に安いために業者が、より高額なLSDと偽ってNBOMe混入ドラッグを
販売していることがほとんど。
LSDは天然由来の成分を合成したものであり、デザインされたNBOMeに較べて
毒性が薄く、デザイナース・ドラッグより安全性が高いと考えられています。。
LSDと信じて多量のNBOMeを吸入、または注射、服用をしてしまい、
その毒性により救急車で運び込まれる急性中毒患者を分析すると
心筋トラブル(cardiovascular complications)、
低体温症(ハイポサーミア:hypothermia),
酸の排出困難がおきるメタボリック・アシド―シス(metabolic acidosis)
などが目立ちますが、脳卒中や交通事故、飛び降りなどで死に至るケースも
多々あります。
(異成分の混入は市販されている簡易試験キットで発見できるようです)
4.オーストラリア発で世界の話題となったNBOMe
2012年までにアメリカをはじめ世界ではNBOMeによる多数の
死者が報告されています。
人口が少なく、ドラッグ事故の少なかったオーストラリアでも
3人のティーンエージャーが死亡したことが大きな話題となりました。
呼吸困難、心臓の異変、幻覚による高所からの飛び降りなど、症状は様々。
解剖結果によればLSD様の物質も発見されており、LSDとNBOMeが混合されていた
疑いがあります。
これらは「合成ドラッグ:synthetic drug 」としてネットで販売されていたもの。
幻覚で空を飛べると信じてアパートの3階より飛び降りた
17歳の若者(ヘンリー・クヮン:Henry Kwan)の悲劇で政府が動き始めました
NBOMes を過剰摂取して死亡した若者はネットなどで
ただ「合成ドラッグ(synthetic drug )」と表示されている
ものを購入しています。
LSD、メタアンフェタミン(methamphetamine) 、 MDMAはいずれも
合成ドラッグですが作用量はおのおの異なります。
このあたりに事故が多発する原因があったわけです。
ヘンリー・クヮン事件を契機にオーストラリア連邦政府、州政府は
消費者関連法によって類似合成ドラッグのすべての使用、販売を禁止しましたが
このころから、これが日本を含む世界のトレンドとなりました。
ただしNBOMeはすでにネットによる裏の販売ルートが確立されていたために
法の適用が困難になっています。
5.モーリー(molly)と俗称される合成カチノン(Cathinone)
取締りの強化によって安いはずのMDMAが急騰したために出回っている
代替品には2C-Bエヌボーム系(NBOMe)以外に合成カチノン(Cathinone)があります。
これはモーリー(molly)と俗称されるもので、由来はアラビアチャノキ(Khat:Catha edulis)。
お茶とは異なりニシキギ科に属します。
Khatはコットと発音されることが多いようですがチャット、カットなど多様な呼び名が
あるようです。
カチノン(Cathinone)はアンフェタミンに似た幻覚作用を持つアルカロイドですが、
天然の葉に含有する量はそれほど作用が強いものではなく
合法ハーブとしてエチオピア、イエメン、ソマリアなどでは
天然の生葉を噛みタバコのように使用しています。
ただし合成カチノンが主となる英米独など先進国では天然、合成ともに
覚醒剤として違法ハーブに指定しています。