チャイニーズ・ゴールデン・スコーピオン(北京のレストラン)
(Chinese golden scorpion:Mesobuthus martensii)
サソリは節足動物.8本脚を持ち、カニの親戚.ゴールデン・スコーピオンは
中国で養殖され、北京はじめ各地で食べられています。
1.アジアのサソリ(蠍、蝎)食文化
東南アジアでは中国系を中心にサソリが
食材、漢方薬として広く養殖されており都会や郊外の多くの街で
手軽に入手できます。
街の屋台では強精効果が期待されているヒトデ、タツノオトシゴなどとともに
串に刺した焼きサソリ、揚げサソリが売られ、市場ではサソリがヘビや
タツノオトシゴ、ヒトデなどとともに蒸留酒に漬けられて売られています。
漢方薬の全蝎(ぜんかつ)はキョクトウサソリ科(Buthidae )のアジアサソリ
(Asian scorpion:Buthus martensii Karsch)が主。
中国の中北部や朝鮮に生息し、毒性は弱いといわれます。
キョクトウサソリ科(Buthidae )は種類が多く、毒性は強弱様々なようです。
アジアサソリ(Asian scorpion:Buthus martensii Karsch)キョクトウサソリ科
アジアサソリと人参様根菜の蒸留酒漬け(ホーチミン市:ベトナム)
中国、東南アジアで漢方薬や強壮強精食品として売られるのは
アジアサソリが多い.
食用のチャイニーズ・ゴールデン・スコーピオンに較べて大型で鋏(はさみ)が
大きいのが特徴.
アジアの市場では下記写真のようにキョクトウサソリ科の酒漬けが売られています。
中国発が多いようですからフェイクの可能性も.ブランデーボトルサイズで約600円.
(写真上左:ホーチミン市の市場)(写真上右:ニャチャンの強壮強精食品専門店.最前列がサソリ)
中国のサソリ食は広州や福州など地方のグルメ都市ならば当たりまえとしても
大都市の北京中心部でサソリ食が有名なのは驚きです。
鬼街(グイジェ:?城区?直?内大街)や屋台ばかりでなく、都心の高級ホテル内や
一流のレストランで普通に提供されますからゲテモノ扱いではありません。
東南アジアでのサソリ食は昆虫食が蛋白源不足の僻地や貧困層に現存するのとは
やや趣が異なります。
ソフトシェルクラブや川エビなどの素揚げに似た食感と美味しさも愛されるようですが、
本音は中国系人がこだわる、食材の「強精強壮効果」期待でしょう。
古くから全蝎(ぜんかつ)と命名され強精に通じる肝臓強化、血管系、
神経系疾病の漢方薬となっています。
ただし、朝鮮人参など他の強精強壮食材に較べれば効能に関して高評価をする人は
少ないようで動物性素材としては安価なのが身近になっている主原因かもしれません。
中国などで養殖されて最も普及している食用品種:
チャイニーズ・ゴールデン・スコーピオン
Chinese golden scorpion(Mesobuthus martensii)
2.サソリの強精作用はベータ・カルボリン (β-carboline)
サソリの強精作用は含有量の多いセックスミネラルの亜鉛(ジンク)と、外皮に含まれる
ベータ・カルボリン (β-carboline)アルカロイドの
精子形成作用(Spermatogenesis)といわれます。
ほとんどのサソリはフォトルミネセンス (Photoluminescence)の蛍光現象を
持ちますが、その元がクチクラ(Cuticula:角皮)に存在するベータ・カルボリン。
ブラックライトを当てると青緑に光ります。
ベータ・カルボリンはサルビアなどに含まれるインドール・アルカロイドに類似。
脳から分泌される神経伝達物質セロトニンから生成される
睡眠調整物質のメラトニンに似た構造を持ちます。
サソリの蛍光物質には植物に多いクマリン (coumarin)に近い物質の
ヒメクロモン (hymecromone:4-methylumbelliferone) も発見されているようです。
ヒメクロモンは胆汁分泌促進作用が知られています。
ベータ・カルボリンのドーパミン分泌を促す作用がうつ病やパーキンソン氏病の
治療に使われることもあり、MAO阻害剤( monoamine oxidase inhibitors:MAOIs)
の働きを持つといわれます。
中南米の先住民族はβ-カルボリン含有植物の幻覚作用を宗教的儀式に利用してきました。
3.サソリの毒素はアミノ酸系神経毒
先進国に自然生息するサソリで身近に観ることが出来る筆頭は、
米国に多いストライプド・バーク・スコーピオン
(striped bark scorpion:Centruroides vittatus)
メキシコ北部からアリゾナ、テキサスなど米国中南部の砂漠や住民の
生活圏に棲息しています。
東南アジアで外国人旅行者が靴を履く前にひっくり返して振っている姿を観ることがあります。
サソリに注意しているのです。おそらくアフリカでも同様でしょう。
西アフリカで猛威を振るうデボラ出血熱などは対岸の火事状態だった首都圏の人たちも
デング熱ウィルス保持蚊やセアカゴケグモ(Latrodectus hasseltii)などの定着で
毒を持つ動物類に関心を持たざるを得なくなりました。
サソリ毒は神経毒の多いアミノ酸系。神経伝達系チャネルに作用します。
毒たんぱく質は専門的に表現すればありふれた
タイトターン(Tight turns :またはreverse turns)と呼ばれる非反復(nonrepetitive structure)な構造。
1,000種を超えるサソリ目(Scorpiones)で危険なのは3%に満たないといわれますが
温暖化とグローバル化によりアフリカなどの猛毒サソリ移入の可能性も覚悟しなければ
ならない時代。
比較的身近で毒性が弱いとされる種類でもアナフィラキーショックがあります。
生息地では合計すると毎年1,000人は死者がでていますから油断はできません。
ストライプド・バーク・スコーピオン(ヒューストン:TX) .右は10歳児の指でサイズを比較.
70から80mmくらいの小さなサソリですが有毒で、駆除の対象となっています。
下の写真は生息地のスーパーなどで売られる安価な簡易駆除剤.ゴキブリホイホイのように
グル―で接着捕獲しますので殺虫剤の噴霧や塗布のように有益動物に被害が及びません.
(ヒューストン:テキサス州)
トムキャットは漫画キャラクター由来のブランド名.
駆除剤生産会社がネズミ獲りボードからスタートしたからです.