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世界の健康と食の安全ニュース

ヒジキの無機ヒ素(亜ヒ酸)は危険な発がん物質?

2013年7月5日に国立がん研究センターは1府8県の45才から74才の男女9万人
を11年間追跡したコホート調査(大規模調査)を公表しました。
内容はヒジキなどの食品ヒ素に肺がんリスクが高いことの警告。
調査では対象者が摂食する75品目の食材からヒ素量を計算。
この間に肺がんを発症した7000人との関連を調べたものです。
最大摂取者群(無機ヒ素を102μ/日)と最低摂取者群(無機ヒ素を36μ/日)を比較すると
男性で28%、女性で37%の割合でリスクが高まっていることを確認したそうです。
喫煙者は男性では28%が38%になるそうです。
ノギボタニカルでは2004年に英国食品企画庁がヒジキの無機ヒ素の危険性を指摘した時点で
下記の報告をしています。

1. 英国の食品企画庁がヒジキの摂食に警告

2004年7月28日に、英国の食品企画庁(Food Standards Agency)が海藻に含まれる
無機砒素(inorganic arsenic)の調査報告を発表し、これを受けて
英国政府がヒジキを食べないように全国レベルの警告を出しました。
食品企画庁(Food Standards Agency)は2000年に新たな立法に基づき設立された、
食の安全を監視する官庁。農水省や厚生省からは独立した機関です。

 

2. ヒジキとは?

ヒジキ(ひじき:Hizikia fusiformis)(ホンダワラ属:Sargassaceae)
日本、韓国の特産。
温暖な日本近海の岩礁が主産地。
最近では日本、韓国ともに養殖も行われています。
産地により形状が異なりますが、最大80cmくらいに成長し、茎(長ヒジキ)、葉(芽ヒジキ)が食用とされます。
日本での生産量は生ヒジキ換算で7247トン/2000年。
長崎県、千葉県、三重県の三県で60%を占めます。
日本では2000年頃から韓国や中国からの養殖輸入品の量が国産を上回るようになりました。
その後、輸入品との総計は乾燥品換算で年間7000トン前後と低迷しており、2012年度では
国産乾燥品がその10%くらいの急減と推測されます。
生のヒジキは褐色をしていますが、食用の商品は 煮沸後、乾燥した黒色が大部分。

 

3. 日本製ヒジキに含有された無機砒素

英国ヨーク州の中央科学研究所 (the Central Science Laboratory Sand Hutton York.)では、
アラメ、ヒジキ、昆布、海苔、ワカメ(arame hijiki kombu nori and wakame)の5種類の
分析が行われましたが、
大量の無機砒素(a significant level of inorganic arsenic)(乾燥品:約66-90mg/kg)が
検出されたのは、ヒジキのみでした。
ロンドン近郊のスーパーなどで買い集められたサンプル数は合計31個。
分析の対象となった31個体のブランド数は不明ですが、日本製と、名指しでの発表ですから、
日本から輸出されたものでしょう。
ヒジキは分析された9個全てから大量に検出されました。

 

4. 無機砒素(亜ヒ酸)の危険性

一般的な有機砒素は、ある程度全ての検体から検出されたそうですが、
無機砒素は昆布、海苔、ワカメからは検出されていません(分析精度不明)
問題視されたのは無機砒素の検出。
無機砒素は肺癌、皮膚癌などの発ガン物質(carcinogen)として危険視され、
特にガンの進行を早める物質(promoter
)として認識されています。
砒素はいろいろな形で存在しますが、特に三酸化砒素の亜砒酸(As2O3)は歴史的に毒物として著名。
和歌山のカレー混入事件(1998年)や、古くは森永の砒素入りミルク事件(1955年)で
脚光を浴びたのは亜ヒ酸。

日本などで、ヒジキの摂食が問題にならなかったのは、無機砒素は海洋生物の体内でメチル化し
毒性の弱い有機の砒素になると考えられていたからです。
また褐藻類(brown kelp)に含まれる砒素の80%くらいは糖結合物(sugar derivatives)として
存在するという報告もありました。

 

5. 英国食品企画庁発表の背景

この調査はカナダの食品検査局(Canadian Food Inspection Agency)がヒジキの無機砒素を問題視して、
摂食を止めるよう勧告(2001年)したのがきっかけでした。
欧米ではダイエットなど健康食品として海藻が珍重され、特にヴェジタリアンの需要も多くあります。
また中国人、韓国人、日本人の居住者も多く、各国の郷土料理、伝統料理には欧米人のファンがいます
(食品企画庁の警告は英語、中国語、韓国語、日本語でも出されています)

 

6. 日本海、東シナ海沿岸地域国に多い砒素摂取量

魚類の好きな中国人(沿海部)、韓国人、日本人の砒素摂取量は世界のビッグスリーとなっています。
環境汚染に関心の薄かった70年代頃は欧米人に比べ5-10倍以上の摂取量といわれてきましたが、
2013年7月現在でも欧米人の2倍は摂食しているといわれます。
英国食品企画庁の警告は、日本、韓国の伝統的な習慣が自国民にとって危険であると言うことでしょう。
この研究報告に関連して、甲殻類を含めた魚類の無機砒素含有も話題となりました。
海洋生物は陸上生物に較べ、最高1000倍くらいの砒素を含有するといわれていますが、
カレイ、ひらめ類(plaice)など底魚の危険性が特に指摘されています。

 

7. 日本の行政からの警告は?

日本の農林水産省、厚生省、環境庁からは、英国やカナダのような調査報告は得られませんでしたが、
民間には、ヒジキの含有砒素は60%が有機の砒酸塩(arsenate)、20%が無機の亜ヒ酸塩.(arsenite)という研究報告(Fukui et al. 1981)(未確認)などがあります。
また海水に含有する砒素(0.001-0.008 mg/l)の3分の1から半分は、亜ヒ酸という
研究(Andreae 1978 Johnson 1972)(未確認)もあります。
* 砒素の研究は環境汚染の激しかった1970年代のデータが多いのが特徴的ですが、
環境汚染対策が進んでいる現在は、当時に較べて諸データ数値が低くなっています。

 

8. 砒素とは

砒素、ヒ素(Arsenic:As)
分子量 299.68:半金属性元素。
砒素は硫砒鉄鉱(Arsenopyrite:FeAsS)、鶏冠石(Realgar:As4S4)、黄鉄鉱(Pyrite:FeS2)などから
分離流出しています。
結合鉱物によって黒、灰色、黄色など同素体があります。
土中では銅、鉄、鉛などとともに砒素化合物(arsenides)(硫化鉱物:sulfidesの一つ)として
存在することが多く、平均的な土壌では40 mg/kg位になります。
工業用途として、合金添加剤、ガリウム砒素など半導体、木材防腐剤、脱硫剤、ガラス脱色剤、
農薬、殺虫剤などに使用されます。
生薬では鶏冠石に近い、硫化砒素化合物の雄黄(ゆうおう)があり、解毒、殺虫に利用します。
砒素は鉛(Pb)、総水銀(Hg)とともに、土壌、水が環境汚染の調査対象重金属となっています。
(中毒症状など健康被害については、他に多くの情報がありますので割愛します)

 

9. 人体が砒素を吸収するルート

砒素は、水、空気、食品の三つのルートから人体に吸収されます。

(空気):空気は一部の鉱山や火力発電所(石炭は1000 mg/kg含有するものがあります)、
特殊な金属加工場等が考えられ、汚染場所は限定されます。
空中の砒素は危険な亜ヒ酸(As2O3)が主であり、吸入量が多い場合は肺がん、気管支がん、
胃腸管出血、肝障害、皮膚角化症、多発性神経炎など重篤な中毒症状になります。

(水):ヒ素は従来から、水の汚染が特に問題視されており、砒素を多く含む鉱物を産する地方*では
濃度が高く、砒素公害の原因となります。
*宮崎県土呂久鉱山、島根県笹々谷鉱山、栃木県足尾鉱山など。
ヒ素は土壌にはごく一般的なミネラルですが、一般的な水道水に0.01 mg/lくらいは
含有されているという報告があります。
1mg/l 位の水道水も海外にはあるそうです。500mg/lを超えるものが汚染水とされます。
インドの西ベンガル州では黄鉄鉱(Pyrite)由来のヒ素の汚染水で20万人を超える中毒患者が出たそうです。

(食品):植物性の食品には一般的に<0.02 mg/kgくらいのヒ素が含有されています
(米国FDAの分析調査では日常的な食品の24%から砒素が、検出されたそうです)。
韓国人、日本人は海産物経由(魚の砒素含有量は、平均的に5 mg/kg以上といわれます。
またカニ肉から30 mg/kgが検出された例もあるそうです)の摂取が大部分ですが、欧米人や
中国人には豚や鶏経由(1 mg/kgから最高10 mg/Kgくらい)が多いといわれています。
英国のデータでは平均的な英国人で81マイクログラム(µg)/日くらいの摂取があるそうです。
豚や鶏は成長促進や病気予防に砒素が投与されていたことがありました。
人体の寛容摂取量はFAO/WHOなどで、体重辺りの目安はありますが
(0.05 mg per kg body weight per day)いまだに確定データが不足のようです。
また体内蓄積が少ないと思われていた、ヒジキ摂取後のヒ素代謝実験も、個人差が激しく、
代謝量の結論は得られないようです。
砒素はワインや、出所が確かでないウィスキーからも0.1 mg/lから0.4 mg/l位検出され、
健康を謳う海藻類などのサプリメントからは50 mg/kgが検出されたそうです。

英国農水省(MINISTRY OF AGRICULTURE FISHERIES AND FOOD)の1982年データなどより。

初版: 2004年7月
改訂版:2013年7月

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