2014年10月の大阪の泉南訴訟判決では国が敗訴し、その後の建設関係判決にも
影響。国が連敗しました。
フォーブスのランキングに入る大手メーカー群や関連業者のほとんどが賠償倒産した
米国に較べ、2桁は違うのではないかという微々たる賠償金でしたが、
責任追及と訴訟は死者が増えてくるこれからが本番です。
中皮腫が予想される方は早期発見、切除が唯一の治療法。
また禁煙など日常生活に配慮するだけで、かなり発症を抑えられるという
研究もいろいろあります。ご紹介するのはその一つ。
アスベスト吸引を経験した方は放射線被曝(ひばく)が予想される場所を避けた方が
良いという岡山大学の研究です。
ケベック州(カナダ)のアスベスト採石場.
米国、欧州が輸入禁止後も日本が輸入していた.
「アスベストの健康被害」はこちらにまとめてあります.
1. 岡山大学の中村栄三教授がラドンの発がん性を指摘
アスベストは肺がん原因の相当部分を占めると推測されています。
このアスベストによる発ガンがラドンや鉄分との結合によるのではないかとの研究が
発表され話題となっています。
ラジウム(ラドン)温泉で有名な鳥取県の三朝(みささ)温泉に拠点を置く、
岡山大学地球地質学センターの中村栄三教授が中心となって発表したものです。
ラドン(ラジウム)は発癌物質として知られています。
2. アスベスト小体(石綿小体:Asbestos body)とは
アスベストが肺に突き刺さり、たんぱく質、鉄分(フェリチン)などが結合したものは
アスベスト小体または石綿小体(Asbestos body)と呼ばれ、
アスベストを原因とする肺がんの認定マーカーとなっています。
アスベスト小体には肺に突き刺さった針状のアスベストにカルシュウム、
塩化鉄分、その他様々な物質が包み込むように付着しています。
小体を拡大して見ると、針状のアスベストの両端に物質が絡まり
鉄アレイ状になっています。
今回の岡山大学の研究によれば、アスベストを原因として死亡した患者の
アスベスト小体に相当量のラジウムが結合していたそうです。
白石綿と言われるクリソタイルが安全といわれた根拠は、
茶色石綿のクロシドライトやアモサイトはアスベスト(石綿)小体をつくりやすいが、
クリソタイルは石綿小体を形成しにくいと言われていたからです。
この安全性については異論が多々あり、有害説が主流となりました。
3. なぜ小体にラジウムが結合?
中村教授の研究による作用機序としては
「アスベストやたばこの煙に含まれる鉄分が
、肺の中に吸入されることで、フェリチンの生成が促される。
これにより体内に極微量含まれるラジウムが濃縮され、発癌物質となる」
フェリチンは肝臓に蓄積される鉄分として知られ、
肝臓ガン発ガン物質の一つといわれます。
フェリチンに関しては下記をご参照ください
4. アスベストによる中皮腫ガンの死亡者は公表数字よりはるかに多い?
ガン死のトップクラスである肺がんでの死亡者は増えており、年間7万人とも言われますが、
そのうちのどのくらいがアスベストによるものかは、はっきりと識別できません。
アスベスト被害の労災認定は年間1000人を超える程度ですが
一説には5万人という説もあります。
全ての死亡者を詳細検査するわけでもなく、
補償、賠償がからむ統計は意図的に操作されることが多いために
推計すら出来ない状況です。
20-30年後に発症が急増した英米の先例から判断すれば、
日本はアスベストによる肺がん(中皮腫癌を含む)死亡者はすでに漸増している
はずであり、10年を待たずに急増することが予想されています。
まともに信ずる関係者は少ないでしょうが、公表されている1990年代後半の
日本の中皮腫認定死亡者は年平均600人前後、2002年は800人。
このうちアスベスト産業従事者が70%以上を占めるといわれます。
5.1980年代からの日本のアスベスト訴訟
日本でも例外的に日本アスベスト(現ニチアス)、朝日石綿(現エーアンドエーマテリアル)、
住友機械などに対して数例の訴訟があります。
裁判記録によれば、1980年のアスベスト訴訟で、日本アスベストと関連工事会社が
敗訴になり、合計約8,000万円を賠償する判決が出ています。
これは関連業界の労務関係者には有名な判決。
この頃から日本でもアスベストと「石綿肺」の因果関係が認知されていたわけです。
胸膜中皮腫は最も悪質ながんの一つといわれており、治療法が限られています。
早期発見での切除が有効と言われますが、自覚症状が出る頃は手遅れ。
発症に数十年かかるケースが多いために、顕在化するこれからは、
死亡者の急増と関連訴訟が予想されます。
6.アスベストの石綿肺と珪肺(けいはい)を同列扱いにした産業界
少なくとも35年以上も前から、アスベストによる胸膜中皮腫(mesothelioma)や
肺がんは関係省庁を含めて、企業関係者の間では広く知られている因果関係。
中国、韓国、日本では欧米でアスベストの危険性が認知された後も、
それを無視してアスベスト輸入と建材生産を強行していました。
石綿肺(asbestosis)とはアスベストを原因とする胸膜中皮腫や肺がんなど、
全てのアスベスト肺疾患の総称。
日本では炭鉱の粉塵による「けい肺」「塵肺」がより有名でしたが、
これは「石綿肺」同様に珪素を主体とする粉塵に肺が侵されるものです。
米国では「けい肺(silicosis)」はアスベストの「石綿肺(asbestosis)」と同様に、
企業が多額な賠償を要求される訴訟対象ですが、
日本では「けい肺」「塵肺」「石綿肺」や繊維産業従事者の肺疾患を含めて、
被雇用者による訴訟事件は稀であり、企業との因果関係が認められる場合には
労災認定で済まされていました。文化の違いなのでしょう。
7.アスベストの危険性はなぜ放置されたか
2000年代にはアスベストによる肺などの中皮腫被害は、建材業から
造船業、工場周辺住民、家族の被害までが次第に明るみに出るようになっています。
2005年7月には総計515人が報告され、被害者や死者を出した会社も51社にのぼりました。
その後何故このような危険な断熱材の輸入や製造が放置されていたのか
議論されましたが、業界団体の石綿協会の抵抗を自民党が受け入れ、
意図的に廃案にしたのが真相とのこと。
事実、1992年に禁止法案が提出されましたが、審議もされずに廃案にされたことで
自民党の責任が追及されていました。
初版:2005/07/18
改訂版:2009/08/05
改訂版:2014/11/20