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二大食用淡水魚の魚油に悪玉アラキドン酸: ナマズ(バサ、チャー)、ナイルティラピア(プラーニン)の脂肪酸バランス
ナマズ(バサ、チャー)、ナイルティラピア(プラーニン)の脂肪酸バランス

 

ナマズ(バサ、チャー)、ナイルティラピア(プラーニン)の脂肪酸バランス

欧米では普通に食されているティラピア(上の写真:タイではプラー・ニンと呼ばれる)やナマズ(バサ、チャー)が日本の魚屋で売られることは稀ですが、多くの人は知らずに食しています。
ファーストフードのフィッシュバーガー、フィッシュチップ、居酒屋のフィッシュフライ、お弁当などの焼き白身魚、白身魚のフライ、スーパーの冷凍白身魚などで、輸入されたティラピアやナマズが売られているからです。
2016年11月25日の日経新聞によればマルハニチロ㈱がベトナム産バサの輸入を昨年度比2.5倍1,000トンに増やしイオンなど量販スーパーで販売するとのこと。
イオンでは学名由来の「パンガシウス」の名前で販売しており*2016年の販売量は4,200トンと半年で5割増し。マルハニチロが現地で甘味料の下味を加えるそうですが、安全性がどのように確保されているのか、公開されていません。
*2018年は7,200トン、2019年が推定6,200トン。

 

1.ウェイク・フォレスト(Wake Forest) 大学のケリー・ウェーバー博士

アメリカ栄養士協会の月報(the Journal of the American Dietetic Association)に、タイ、ベトナムの養殖魚の安全性に関するウェイク・フォレスト(Wake Forest) 大学の研究が掲載されました。
「養殖魚のティラピア、ナマズは心臓血管の健康を損なう恐れがある」という見解が示されたのは2008年。
理由は養殖魚の魚油に含まれる数ある脂肪酸の脂肪酸バランスが悪いから。
オメガ6がオメガ3に較べて多すぎ、脂肪酸バランスが悪くなっているのは「ティアピアは安価なトウモロコシ油で養殖されているのが原因」と論文を発表したケリー・ウェーバー博士は述べています。
魚油が心臓血管、脳血管の健康維持に卓抜する効果があることに異論を挟む人はありません。
全米心臓協会などは週に2回は魚油のオメガ3を摂取するために、魚を食べることを推奨しています。



2.ナイルティラピア(プラーニン)、ナマズ(バサ、チャー)

ティラピアはアジア、エジプトなどで養殖され欧米で、最も普及している養殖食卓魚。
品質に贅沢しなければ安い肉類はたくさんありますが、魚介類は総じて高いものが多いのが難点。
そんななかでもティラピアやナマズは価格が安いことから、低所得者にも手が届く数少ない魚。

(写真上)中央上がチャー.その下がバサ

 

 (写真上)色は異なりますが左右ともにナイル・ティラピア
写真左はタイでプラー・タブティム(Pla Tubtim:ルビー色の魚)と呼ばれる

タブティムはタイ人が作り上げたプラー・ニン(plaa・nin)の交配種(ND 56 Tilapia)。
3割以上高く売られる。ティラピアの詳細は下記を参照してください。

タイの魚市場その1:食用魚のチャンピオンは仁魚(プラー・ニン)

タイの魚市場その1:
タイの魚介小売、卸売り市場では、なまず類(英名:catfish)とティラピア(テラピア:Tilapia)類がもっともポピュラーであり、鱸(スズキ:バラムンディー)がそれに続く。 いずれも淡水、汽水域で漁獲、養殖され、小売でキロ100円から200円。 ナマズとともに国民的人気を持つのが上の写真ティラピア(Tilapia)。 タイ語でプラーニン(仁魚)と呼ばれている。 鶏肉と価格で対抗できる数少ない蛋白源の魚類がナマズとプラーニン。 プラー・ニン(仁魚)渡来の経緯は、魚に関心のあるタイ知識人なら誰でも知っているといわれる。 プラーはタイ語で魚。仁は今上陛下の御名(明仁)に因んだもの(ナイルという説も)。 半世紀ほどまえに陛下(当時は皇太子殿下)からタイ国王に贈られたいきさつから、ニン(仁)が通称となったらしい(国王が名づけ親とも言われるが未確認)。 日本ではイズミダイなどと呼ばれるアフリカ・ナイル河原産の外来魚 (ナイル・ティラピア:Oreochromis niloticus)。   淡白ながら、美味しい白身に要求される脂肪分が豊富で焼き魚、揚げ魚に耐えうる。 流通による劣化が遅い(生命力...

キャットフィッシュ(catfish)、バサ(basa)、デース(Dace)
① キャットフィッシュ(catfish)とは
キャットフィッシュはナマズ類の総称です。米国の食品医薬品安全局(FDA)ではキャットフィッシュ(なまず)とバサを分けていますが、食品業界(消費者向け)では同一に扱われているようです。
ナマズ類は世界では37科が報告されていますが、大きいものは4メートルを超える(英国などに生息するWels Catfish)といわれ、アジアでもメコンナマズや赤尾ナマズ(レッドテールキャットフィッシュ)など
2メートル以上のナマズが珍しくありません。
欧米の強い需要に支えられてベトナムではナマズ類輸出が1997年の425トンから2005年には300倍の13万3000トンになったといわれます。

② バサ(bocourti catfish, basa catfish)とは
バサはベトナムで養殖が盛んなナマズ類です。ベトナムでは「なまず」イコール、バサですが、魚形は腹部が大きいハクレンに近い菱形です。バサと呼ばれる魚の 基本種はPangasius bocoutiといわれますが、米国食品業界では切り身で流通するために種類が特定できず、チャー(tra:Pangasius hypophthalmus)などを含めた食用ナマズ類の総称となっています。
日本では淡水魚の食用ナマズ類は魚屋さんではなじみが薄いですが、米国南部やアジア諸国では、ヒラメ類(ソール)に替わる主要な白身魚類です。

③ デース(Dace)(Leuciscus leucisus)とは
デースはヨーロッパの呼び名で、やはり養殖に適した淡水魚です。
米国では鯉(こい)の種類と言う程度の理解で、食用の場合は近似種がふくまれます。
中国などアジア系の料理に使用されるそうです。
日本では、コイ科のうぐい(ウグイ)(別名ハヤ)(leuciscus hakonensis)と呼ばれる魚がデースの近似種です。
(写真と解説はこちら)
ベトナムとアメリカ(米越)のナマズ戦争:バサ、チャー、サワイとは
https://www.nogibota.com/archives/2962

 

3. 魚類の汚染と飼料による脂肪酸バランス悪化

無論、この魚たち以外の魚油の全てが安全ではありません。
魚油の危険性には、魚が食べる毒性物質のダイオキシンやポリ塩化ビフェニル(PCB)、水銀、養殖魚の抗生物質などや、魚の加工中に発生するトランス脂肪酸、過酸化脂質などが挙げられていました。
いずれも魚固有の成分ではありませんが、この研究が、魚種によっては
「魚油の脂肪酸バランスそのものが危険である」との、これまでにない見解を示したことが波紋を呼んでいます。



4. ウェイク・フォレスト大学の魚油脂肪酸調査とその対象魚

研究はノースカロライナ州のウェイク・フォレスト大学薬学部のケリー・ウェーバー博士(Dr Kelly Weaver)
(Wake Forest University School of Medicine, Winston-Salem, NC).のグループが発表しました。
調査対象は最も一般的に養殖されている大西洋サーモン、鱒(ます)、ティラピア、ナマズ(Atlantic salmon, trout, tilapia, catfish)
購入先はいくつかのルートがあります。レストランやスーパーマーケットに卸している、いくつかの会社、4州のスーパーマーケット、南米の会社、幾つかの国の水産養殖会社。全てのサンプルはガスクロマトグラフィーで分析するまで冷凍保存しました。



5.調査で判明した養殖魚の特徴的な脂肪酸バランス

ティラピアのオメガ3は100グラム当たり0.5グラムしかなく、カレイ(flounder)、カジキマグロ(swordfish.)も同様でした。それに較べて、養殖のサーモンとマスはオメガ3が3から4グラムありました。
ティラピアはオメガ6とアラキドン酸がサーモンと鱒に較べ非常に多いのが特徴的でした。
オメガ3のEPAとオメガ6のアラキドン酸(arachidonic acid)の比率(脂肪酸バランス)はティラピアが11.1平均、サケマスは1.1でした。比率には10倍の開きがあります。
ナマズ(キャットフィッシュ)もティラピア同様にオメガ3が少なく、オメガ6が極めて多く検出されました。
オメガ6は心臓病、脳障害の原因となる炎症をおこす悪玉アラキドン酸を生じます。
悪玉アラキドン酸(arachidonic acid)発生はリノール油(オメガ6)の過剰摂取。
生体にはオメガ6およびオメガ6より生成されるアラキドン酸が必要であるとする議論があります。少量なら確かにそうでしょう。
ところがオメガ6は大豆、トウモロコシなど安価な植物性食用油に大量に含有。
オメガ6豊富な植物性食用油は加工食品の大半に使用され、日常的に摂食されています。
結果、ほとんどの人がオメガ6をとり過ぎており、アラキドン酸過剰の害が、アトピーなど、諸悪の根源のようにいわれています。
脂肪酸バランスの改善には摂りすぎのオメガ6の悪作用を抑え、オメガ3を増やして比率を小さくすることです。

このようなオメガ6食用油摂りすぎの弊害もオメガ3を摂取することにより、バランスが改善されることが知られていますが、
博士によれば「ティラピアはオメガ3が少なすぎ、オメガ6が多すぎるのが問題」「ティラピアやナマズを常食してはバランス改善が容易ではない」というのが結論です。
この研究の主席であるウェークフォレスト大学(Wake Forest Center for Botanical Lipids)のフロイド・チルトン博士(Dr Floyd Chilton)は
30年間の研究によりアラキドン酸が全ての炎症脂質(proinflammatory lipid)の基材であることを確認している」と述べています。

動物実験ではアラキドン酸投与が細胞炎症を引き起こし、病気になる明白な結果が出ていますが、博士は「ティアピアは安価なトウモロコシ油で養殖されているのが原因」としています。



6.(参考)アラキドン酸(arachidonic acid:AA)とは

アラキドン酸(arachidonic acid:C20H32O2:分子量304.47)はリノール油から作られる、オメガ6のリノール酸(C18H32O2:分子量280.45)が変換したものです。

アラキドン酸(AA)は主として脂肪細胞(マスト細胞)、好中球など白血球の細胞膜リン脂質から遊離されますが、細胞の種類ごとに特定の酵素が働いて、構造の異なる生理活性物質群のアラキドン酸代謝物を善玉、悪玉を合わせて100種近く合成します。
構造が少しずつ変化していますが、いずれも強力な作用を持つ物質。

 

細胞膜リン脂質から滲出したアラキドン酸は大きく分類して、二つの系統のアラキドン酸代謝物へと変換されます。

a. シクロオキシゲナ-ゼ(cyclooxygenase:COX)
酸素添加酵素によって、一連のプロスタグランディン(PG)やトロンボキサン(TX)が生成される代謝系、

b. リポキシゲナ-ゼ酸素添加酵素(lipoxygenase)によってPG類縁体のプロスタノイド(上記)と呼ばれる過酸化脂質が生成される代謝系
以上、2つの経路に分けられます。
アラキドン酸が膜から切り出されてプロスタグランディン(PG)へ変換されるわけですが、アラキドン酸にCOXが働くと、酸素2分子が導入されます。

 

(生鮮食材研究家:しらす・さぶろう)

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