史学者によると、体制変革や文明革新が起きる要因が二分され、ハードパワー即ち腕力(軍事力)が
引き起こしたものを「乱」と言い、ソフトパワー(経済力、文化力)等の智力によってなされたのが
「変」と言って、学識用語上、歴史的事象の区別があるそうです。
尤(もっと)も、昨今はジャーナリストや社会評論家などが、「乱と変」を混同して
誤用するケースが多くなっているようです。
いずれにせよ、願わくは、北朝鮮や中近東を巡る諍(いさか)いが大乱に至ることなく、
小乱で収まっていて呉れることを望む他ありません。
一方で、政治外交面、生活文化面等において、これまで常識や良識とされて来た概念が
次第に覆(くつがえ)され、非常識とまでは行かないが“不常識”とでもいうべきか、旧態依然の良識に
代わる「新しい考え方」「発想の転換」が今後の世の中を変えつつあることを実感するようになって
来ました。
物事や思考には、核心・根本と些末(さまつ)・端末の違いがあり、これを取り違えると
「本末(ほんまつ)転倒(てんとう)」の大きな錯誤(さくご)に至るので、理念主義と現実主義、内と外、
上下左右、縦横斜めなどの区別と選別には、十分な配慮を忘れないよう心掛けたいものです。
我が国も、まもなく天皇譲位と改元、オリンピックと大行事が控えていますが、忘年の期に
「乱と変」を論じる次第です。
トランプ大統領がエルサレムをイスラエルの首都と宣言したことで、世界中に波紋が広まり、
世界の常識を覆す決定に多数派の国々が反発を強めております。
例によって米国のCNN,タイムス等の反トランプ・メディア発信を吟味もなく、
そのまま垂れ流すだけの我が国や欧米のマスコミは、トランプが支持基盤である
キリスト教原理主義者やユダヤ系米人への選挙公約を履行した“気まぐれの愚策”で
パレスチナ側の反発を招き、中東和平を阻害(そがい)する愚行であると
短絡的論評に終始しております。そもそも、イスラエルは既に、政府と議会、最高裁をエルサレムに
置き実質的な首都として機能を果たしており、目下テルアビブに大使館を置く米国とて、
移転の期日を確定した訳ではないので、此処は、行きづまっている中東和平交渉に楔(くさび)を
打つ秘策なり、何らかの根拠を持つ真意を探って置く知恵が問われていると思います。
目下米国にとっての「ならず者=核保有反米国」は北朝鮮とイランの二か国ですが、
二正面作戦だけは避けたい筈で、その場合、信頼できる協力者が得やすく、切り崩しの易しい方から
手を付けるのが得策でしょう。
現下の中東情勢は、シリアとIS掃討(そうとう)後のイラク分断、クルド独立紛争を何とか
“小乱”に留め、“大乱”に発展する恐れがあるスンニ派対シーア派諸国間の宗教戦争、
そして最悪のシナリオはイスラエルとイランによる核戦争の恐怖を回避することでしょう。
ここへ来て金満国家サウジアラビアが原油依存の経済体制に危機感を募(つの)らせ、ムハンマド皇太子に
よる産業の多様性(工業化、IT化、投資招聘(しょうへい)、観光立国等)と民主化・法体制見直し、
文明開化への取り組みにおいて、イスラエルとの関係強化、米国や
日本(過日来日し明治維新と戦後の経済成長に関心を示した)への支援要請の動きが目立っており、
この背景には、軍事力を強めシーア派諸国を取り込んで中東支配を強めるイランの脅威(きょうい)を
封じ込める反イラン同盟構築の必然性が高まっていると見られます。
パレスチナのアッバス議長の影響力低下もあるようですから、トランプの宣言が、大戦防止の
妙薬になるかも知れない“不常識策”なのかもしれません。
世界の多数決か、中東の多数決か、どちらが大乱を呼ぶのか、小乱に収めるのか、常識が問われます。
核拡散問題の二悪はイランと北朝鮮二か国が互いの裏取引を通じて核兵器開発に
長足の進化を遂げたことにあり、それに歯止めを掛けられなかったのがオバマ8年間の軟弱外交と
国連の無力であって、パキスタン、中国やロシアの関与も囁(ささや)かれております。
トランプ政権の情報ネットワークの一大ソースは、米国軍最大38万人を擁(ようす)る
太平洋統合軍の司令長官であるハリー・ハリス海軍大将(横須賀生まれで日本人母のハーフ、ハワイ駐在)で、訪米時の安倍首相や訪日時のトランプ大統領の真珠湾立ち寄りが相次ぎ、ハリス氏と
日米同盟強化を含む極東・中東・対中露の諸課題を密議したことは、マスコミ報道の表に出なかった分、
意味深だったと考えられます。
クリントン大統領に始まってオバマ大統領に至る米中結託が、中国の台頭を許し
(米経済失速・軍事費低減と中国経済高揚・軍事力強化)その主因となったのは米国の
債務が世界最大の8兆ドルに達したので、主要債権国の日本(対外純資産3兆ドル)、
中国とドイツ(同各1.7兆ドルづつ)に米国金融市場のサポートを懇願したことにあったので、
その結果、日独はともかく、米国のアジア太平洋覇権を脅(おびや)かす中国の横暴(南シナ海覇権ほか)を
来したのです。
ここへ来て、中国の経済失速や汚職対策で資金流出に歯止めがかかり、一方ドイツも自国の
不況・エネルギー問題とEU/ユーロ問題(主に南欧対策)に悩まされ、米国支援に齟齬(そご)を来す様になってしまった為、トランプ政府が経済政策の大転換を余儀なくされた訳です。
こうした背景から見えてくるのが、オバマケアの膨大な支出を抑え、対中貿易赤字解消と経済成長を目指す減税や製造業復興等のトランプ主唱のアメリカファースト政策は、ただ単に我田引水のナショナリズムと
矮小化(わいしょうか)されるのではなく、世界へ向けた米国復権宣言と捉える視座を持つべきと
思量致します。
今般の米連邦法人税を21%へと大幅減税したこと(州法人税がテキサス他の0%から
NY6.5%、加州8.8%等の+まであり)、併せて海外子会社の配当課税廃止策により、
留保金の還流は3兆ドルを超え、M&A,設備投資、インフラ投資、株式投資などが活性化して、
経済成長を押し上げる効果が大きいと目されます。
さらに、所得税も最高額37%と2%の微減でしたが、大統領選支持層だったラストベルト地域の
労働者等、中所得層にはかなりの大幅減税となったようで、
これらはレーガン景気と強きアメリカの復元を齎(もたら)すだろうと見られています。
こうした背景から、トランプ大統領が最近発表した「国家安全保障戦略」の基本姿勢
{世界最強の軍事力により、現行の国際秩序と価値を守る姿勢を明確に示した}は世界平和を目指す
“外向き”の決意表明であり、世界の警察官役を放棄すると明言したオバマ前政権による協調重視の
理想主義との決別を図る明確な意図が読み取れます。
中でも、中国とロシアを「現状変更国家」と名指しし、米国の価値や富に挑戦し、力ずくで米国が
築いてきた国際秩序の破壊を狙う勢力だと位置づけ、併せて核・ミサイルを増強する北朝鮮と
イランを米国と同盟諸国を脅かす「ならず者政権」と非難しました。
そして地域戦略対象の筆頭に「インド太平洋」を上げてくれたことは、
中国の東シナ海・南シナ海における軍事的拡張に対抗する為、安倍首相が主導する
「民主主義と法の支配という価値を共有する米日豪印4か国連携の海上ダイヤモンド安保協力体系」の
心強い応援歌になりました。
なお、「経済安保は国家の安保に通じる」とのトランプ発言は、ある意味でグローバリズムの常識を
覆すものですが、独裁国家政権によるサイバー攻撃や無謀な為替操作と損益度外視の国策輸出など、
不公正貿易や金融政策に対しては警鐘を鳴らすとともに、大国の自重を促(うなが)す効果があったと
思います。
米国の知友によると、トランプが理想とするのは、「20ドル札肖像画のアンドリュー ジャクソン
第七代大統領で“叩き上げ苦労人”として、庶民の為の政治を標榜(ひょうぼう)した史上初の
“ポピュリズム派”だったのです。
クリントンやブッシュ、オバマを支持してきた米国エスタブリッシュ層は、NY,LA両海岸や
大都市を中心に、思想・文化のリーダーシップを握る一方、人道主義とグローバリズム経済・文化の
利得をわが物とするのに追われ、愛国的でなくなって来ており、こうしたエリート層に対して
不信感を抱き、トランプを選んだ市民は、アメリカ史に脈々と流れてきた“反知性主義”ともいうべき
“竹を割ったような分かり易い性格を帯びた、古き良きアメリカ人”達なのだそうです。
この一年、異端の大統領に世界は振り回されてきましたが、当初から4割前後と低空飛行ながら、
トランプ支持層は思いのほか底堅いものがあり、一般的世評による退陣に至っておりません。
確かに予見不能でやり難い相手ではあり、常識派の多数決は、様子見、乃至は失脚待ちかも知れませんが、
隣国に火薬庫北朝鮮と、アメリカに代わる覇権を狙う中露両核保有軍事大国に囲まれている我が国としては、少数派に甘んじようとも、同盟国トランプ政権と、親日派の太平洋統合軍総司令長官ハリス大将への
逆張り(追従ではなく実利を示す)を続ける他ないと考えます。