7月4日は米国の独立記念日(Independence Day)ですが、
米国では南部、西部を中心に「スイカ・ゲーム」「スイカ・パンチ」「スイカ・サラダ」など
西瓜(すいか)が祭りの主役となります。
スイカの大生産地、テキサス州からはスイカとシトルリンの興味深いニュースが
発信され、毎年の盛り上がりに花を添えています。
生鮮スイカはシトルリンが豊富ですが、特に外皮(ラインド:rind)まで食すれば、
シトルリンの保健効果、強精、強壮効果が倍増するという研究です。
日本では外皮部分を漬物などで食用とする方法がありますから試してみてはいかがでしょう。
テキサス農業大学(the Texas A&M University)農芸化学部では赤身にも
シトルリンを豊富にする品種の開発が進んでいるようです。
日本では赤みの多い小型スイカ(写真上)が一番人気.住環境によるのでしょうが
出来るだけ白い部分(英語ではrind)の多い大型を選んで食べましょう。
甘味はありませんが、白い部分(ラインド)には重要成分のシトルリンが豊富.
果実を楽しんだ後は漬物、煮物などにすれば、とても美味.
*シトルリンは有用なアミノ酸ですが合成アミノ酸による過剰摂取は逆効果で危険です。
「健康オタクが癌になり、認知症を防げないなぜ:
サプリメントの危険性は薬用ハーブと過剰な摂食量」
1. スイカはバイアグラ効果を持つだろう(Watermelon May Have Viagra-Effect)
「スイカはバイアグラ効果を持つだろう」(Watermelon May Have Viagra-Effect)
というパティル博士(Dr. Bhimu Patil)のレポートが話題となったのは2008年。
パティル博士は、テキサス農業大学(the Texas A&M University)
農芸化学部(Horticultural Sciences)に併設(1992年)された
「野菜と果実の改良センター」理事を務めています
(The Vegetable and Fruit Improvement Center :VFIC)。
*テキサス州はフロリダ、カリフォルニアに次ぐスイカの大生産地。
2. テキサス農業大学の野菜と果実の改良センター(VFIC)
テキサス農業大学(the Texas A&M University)は全米で有数の農業大学。
1876年に創立されました。
学生数は全米第4位、ヒューストンより車で2時間程度に立地しています。
A&MとはAgricultural and Mechanicaの略lですがテキサス農工大学というより、
昔ながらの農業大学というのが地元の感覚のようです。
テキサス州の農業は零細業者が多いために農業従事者数と開墾面積は全米一で、
スイカの他、人参、かんきつ類、メロン、タマネギ、桃、ペカン(pecan)、
トウガラシ、ジャガイモなどが特産品となっています。
野菜と果実の改良センター(The Vegetable and Fruit Improvement Center:VFIC)の
研究ターゲットは生産している野菜、果物の生理活性物質を調べ、
遺伝子組み換、品種改良により有用物質を強化した野菜、果物を開発すること。
例えばスイカにカロテノイド(カロチノイド)を強化することにより抗酸化作用が
さらに強くなります。
改良センター(VFIC)が開発したリコピン強化トマトも著名です。
品種改良の研究対象物質は、主として野菜、果実の重要含有成分である
アントシアニン、アスコルビン酸、カルシュウム、カロテノイド、フラボノイド、
リモノイド、フェノール類、糖類です。
3. スイカは独立記念日よりバレンタインデーにふさわしい。
バティル博士のレポート
バティル博士はレポートで以下のように述べています(要点の抜粋)。
「スイカは調べれば調べるほど、驚くほど多様な滋養物質を持ちます。
リコピン(リコペン)、βカロチン(ベータ・カロテン)がこれまで良く知られたスイカの
植物性滋養物質(phyto-nutrients)ですが、
近年になり、もつれた糸がほどけるように解明されてきたのが
遊離アミノ酸のシトルリン。
元来、シトルリンはスイカの属名であるCitrullusから名付けられていますから、
成分の存在は知られていましたが、詳しい機能は解明されていませんでした。
インポテンツやEDと呼ばれる性機能不全は心理面なども絡みますから、
単純ではありませんが、シトルリンにより、さらなる酸化窒素を補充することが、
血流増加を期待する人の助けとなるでしょう。
シトルリンはアンギーナ(アンギナ:angina:心臓への血流不足で起こる様々な症状)、
血圧、心臓障害の治療の助けともなります」
「西瓜(すいか)を摂食するとシトルリンはアルギニンに変わりますが、
このアルギニンは
心臓と循環器システムに不思議な働きを持ち、免疫機能を強化します。
その上シトルリン・アルギニンは肥満や2型糖尿病を病む人に役立ちます」
「アルギニンが窒素を合成し、血管を弛緩させますが、これは性衝動(libido)を引き起こし、
勃起不全の治療、予防に効果があります。(合成アルギニンを直接摂食するのでなく
体内合成が必要.シトルリンには協働物質が必要ですから合成シトルリン単体での摂取では
目的達成が困難)
スイカは独立記念日よりバレンタインデーにふさわしいのです」
「スイカの効果はそればかりではありません。体内合成されたアルギニンは
尿素回路で有害なアンモニアや毒素を取り除きます」
窒素の合成は下記に解説があります。
「シトルリンここのつ(9)の何故? Q&A」
4. テキサス農業大学が目論むスイカのシトルリン強化品種
スイカに含まれるシトルリンは食用されていない、外皮部分(rind;ラインド)に
多く含まれます。
ラインドは一般的に食べられていない部分ですので、現在パティル博士の研究室では
食用部分にシトルリンを強化した品種を生み出す研究をしています。
この研究の副産物として赤い部分がトマトのようにリコピン豊富とする品種も
ターゲットなりました。
水分の92%を除いた8%をリコペンにする工夫です。
リコピン(リコペン)は心臓、前立腺、肌の健康に役立つ抗酸化物質です。
すでにある種類の赤い西瓜にはトマト以上にリコピンが含まれる品種があるのも
確認されています。(リコペンは脂溶性ですので、スイカもトマトのように
サラダオイルを使った料理を博士は推奨しています)
アジアのデパートではスイカや瓜類の売り場が充実しています(バンコク)
5. 西瓜(すいか)の功能
すいかには食用、薬用として4000年以上の歴史があり、種、皮、果汁が民間薬、
生薬としてもちいられてきました。
原産地は北アフリカとも中近東とも言われています。
種は中国などアジアの一部では現在でも食用、薬用となります。
日本でも農業全書(1697年:元禄10年)に功能などの記載があるといわれますが、
確認はできていません。
農業全書は日本で最も著名な農業指導書と言われ、福岡藩士宮崎安貞(みやざきやすさだ)、
貝原益軒、貝原楽軒が共著、編纂しています。
当時はスイカの薬用作用機序が解らなかったものの、謳われた功能は現在判明しているものと
大差ありません。
先人はシトルリン豊富な皮を食していたそうですから、先人の知恵に驚かされます。
古くに効能として謳われたスイカの利尿作用、腎臓の健康、膀胱、むくみ、血圧、
心臓の健康、動脈硬化、糖尿、高脂血など、
ほとんどはシトルリンが主となる作用ですが当時はその物質の存在がわかりませんでした。
スイカのカリウム、リコピンの作用が云々されるようになったのも最近のことですが、
シトルリンの作用がはっきりと解明されたのも近年。
ウリ科の植物には同様な効果が認められるものが多いといわれています。
一般的な食用ではキュウリ、ニガウリ、メロン、カボチャ、トウガン、テッポウウリ。
地域によっては常食されませんがヒョウタン、ヘチマなどもウリ科です。
「ウリ科の強精強壮成分シトルリンで酷暑を凌ぐ」
6. 米国と日本のすいか生産
米国のスイカ産地はフロリダ、カリフォルニア、テキサスの各州が御三家。
ジョージア、アリゾナが続きます。
米国には200から300種類(というより呼称)の西瓜(すいか)が栽培されており、
流通しているものだけでも50種類はあります。
種類(呼称)の多さは産地や栽培者のアイデンティティーの強調が主で、
流通業者が識別するための呼称です。
スイカはトウガラシ、トウモロコシと同様で学術的な種類はひとつ。
瓜(ウリ)科(Curcurbitaceae)のすいか(Citrullus lanatus)のみです。
大小、形状の相違、外皮や食用部分の色の相違、種の有無など、
外見の相違で区別されています。
米国では楕円形が主のピクニック類が最も著名で、
クリムソン・スウィート・ジュビリー(Crimson Sweet Jubilee)、
オールスウィート(Allsweet)種がポピュラー。
日本では大型の楕円形を見かけることが少ないのですが、富山県下新川郡の入善町で
作られるものが著名。
首都圏で大型はほとんど売られていません。
小型の楕円形ならば珍しくありません。
千葉県から全国に拡がったといわれる皮が薄く、甘い改良種(マダーボール)が
多くなっています。
日本で生産量が多い生産地は、5月に収穫する熊本県鹿本郡植木町(約2万トン/年)。
6月からは茨城県山武郡、山形県尾花沢市などが植木町と同等か、
年度によってはそれを上回ります。
日本は2万トンを超える生産地は少なく、生産量はフロリダの約80万トン/年と較べれば
いかに規模が小さいかがわかります。
狭い住居と冷蔵庫の関係で小玉に人気があるのも日本らしい特徴です。
日本は大型スイカ(上の写真)もラインドが少なくなりましたが
小型よりはるかに多いのがふつう。
7. 種無しスイカ(seedless watermelon)
日本では30年くらい前まで相当量が流通していました。
1950年ごろに品種改良された種無しスイカが出現し、種無しスイカには小麦などの
品種改良で著名な京都大学の木原均教授が関与したそうですが、定かではありません。
アメリカ人は種無しスイカを好みますが、日本では品質にムラがあり、栽培が難しい、
収穫に時間がかかるなどを理由に嫌われているそうです。
現在では改良方法が異なるために、米国産種無しスイカは安定した品質が
得られているようです。
初版:2008年7月
改訂版:2015年7月